ひとむれ
このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。
職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。
※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
巻頭言
専門部会に参加して
「一員になる」ということ
校長 仁原正幹
北国の十一月は気候が劇的に変動します。上旬には小春日和のぽかぽか陽気が続き、校祖の胸像横の楓の葉が秋の陽射しに映えて深紅の輝きを誇っていました。中旬になると急に寒気が押し寄せ、楓の葉が一枚残らず散り落ちて寒々とした風景に様変わり。下旬にはとうとう初雪が降って辺り一面が白一色となり、幸助先生も綿帽子を被ってしまいました。
このように家庭学校は毎年十一月の下旬には雪に覆われてしまうため、野菜や花を育てる屋外の作業が一段落することから、勤労感謝の日の前後に一年間の収穫を感謝して、また「作業班学習」を総まとめする意味で「作業班学習発表会」を開催してきました。かつては「収穫感謝祭学習発表会」という名称でした。
「作業班学習発表会」では、生徒全員、一人一人が別々のテーマで、実践してきた自らの作業を振り返っての発表をします。各人の発表時間は十分間で、発表後には会場中からの質問攻めに遭います。作業の意味や成果、自分の役割などを改めてしっかりと考えることになり、それぞれが達成感や自己肯定感を高めます。
発表準備のために二週間、子ども達は作業班毎に五つの教室に分かれてプレゼン資料創りに励みます。家庭学校職員と望の岡分校教員の指導を受けながら、模造紙に文章を書き、絵やグラフを描き、写真を貼ります。何枚もの模造紙を裏面でガムテープで貼り合わせて大きな紙面を作ります。六枚も八枚もの模造紙を使って大きな資料を創る生徒もいます。
「作業班学習発表会」では誰もが主役です。元の学校では晴れやかな舞台に立った経験などない子ども達ばかりですが、家庭学校では一人残らず全員がスポットライトを浴びるのです。
私はこの「作業班学習発表会」こそが最も重要な意味を持つ行事であり、家庭学校を代表するシーンであると校長一年目のときに確信し、二年目からは全ての児童相談所と原籍校に案内し、担当する先生方に子ども達の成長振りを目の当たりにしてもらうことにしています。
今年の発表会も二十一日、二十二日の二日間の開催でしたが、大変充実した素晴らしい内容でした。二週間の準備期間と二日間の本番、生徒の皆さん、本当にご苦労様でした。指導に当たった先生方、大変有難うございました。
そして何よりも、一年間を通じて、雨の日も風の日も雪の日も、子ども達に寄り添い励まし、懇切丁寧にご指導いただいた全ての先生方に、心より感謝申し上げます。子ども達一人一人への講評は「収穫感謝特集号」に書かせていただきます。
楽山寮寮長 千葉正義
十一月八日、九日に秋田県で行われた平成三十年度東北・北海道地区児童自立支援施設協議会専門部会(支援部会)に参加させていただきました。今回のテーマは『新しい社会的養育ビジョン』を踏まえ、各施設における今後の支援の在り方に関わる協議及び喫緊の課題等について情報交換を行うことを目的とするということで、東北・北海道地区の中から七施設が参加し、開催されました。
最初に、各施設から現況について報告がありました。特徴として、ほとんどの施設において精神的、心理的なケアを必要とする児童の比率が高い(複合している場合も)ということが挙げられており、このことは家庭学校でも同様といえます。ケアニーズの高い子どもが多く在籍しており、どの施設でも職員は日々奮闘しているのだろうと感じました。
次に協議題についての情報交換が行われました。今回のテーマである「新しい社会的養育ビジョン」というものを私自身深く理解しておらず、自分からはあまり議論に参加出来ませんでしたが、各施設の考え方や先生方の思いなど感じ取ることが出来、有意義なものとなりました。意見交換の中で印象的だったことを私なりにまとめてみたいと思います。
「協議題一 児童福祉法第三条の二に規定している『できる限り良好な家庭環境』とは小規模施設での養育環境を意味しており、生活単位は最大でも六名以下の子ども(ケアニーズが高い子どもが入所する状況では四名以下)で運営することとし、この原則は児童自立支援施設でも同様と言われていることについて」
① 何を持って家庭的と呼べるのか
児童自立支援施設に入所してくる子どもの特性は様々で、少人数の中の支援や個別支援が必要な子もいれば、多人数の生活集団で自分を活かせる子もいる。支援する側から考えても、ケアニーズの高い児童が一人でもいれば、例え小人数集団であっても支援の困難さは変わらない。従って、「できる限り良好な家庭環境=少人数」ということにはならないのではないか。
② 施設のハード面の問題
児童自立支援施設は、少人数用に設計されたものではなく、あくまで集団処遇を前提として作られている。それは家庭学校も同じで、現在稼働している三つの寮舎を改築するのは難しい。他の施設でも同様である様子。職員の確保や定員の問題など課題が多い。
「協議題二 永続的解決(パーマネンシー保障)としては特別養子縁組が有力な選択肢とされているが、里親家庭から施設に措置変更となる場合や施設不適合を理由に児童自立支援施設へ措置変更される場合が増加傾向にあることから、措置変更が「過去との断絶」にならないための各施設の取り組みについて」
日ごろから児童相談所と連携を取り、密にケースワークを行っていくことで、元の施設に復帰できるケースもある。また、「過去との断絶」になってしまうような場合でも連鎖を防ぐため、アフターケア等を行うよう配慮している、など。課題としては、養護施設からの措置変更に対して元の施設に戻そうとするが、それがなかなか難しい。
施設単独の問題ではなく、児童相談所、養護施設や里親、そして児童自立支援施設が一体となり関わっていければ良いのではないかということ。
その後の交流会では、東北・北海道地区の多くの先生方と交流することが出来ました。日々の苦労や成功体験など、児童自立支援施設の職員ならではの苦労や喜びを共有することが出来、私にとってかけがえのないものとなりました。
2日目は喫緊の課題ということで情報交換会と、秋田県立千秋学園の見学をさせていただきました。情報交換では、各施設の勤務体系や児童相談所など関係機関との連携について話し合うことが出来、特に交代制の施設の勤務体系は職員間の連携が不可欠であり、夫婦制で寮を担当している私にとっては、どんなものなのか想像し難い部分もありました。その後、秋田県立千秋学園を見学させていただいた際も、寮舎の造りなど家庭学校とは全く違い、今まであまり交代制の施設を見学したことが無かったので新鮮な気持ちになり、また、子どもたちの気持ちの良い挨拶も印象的でした。家庭学校の寮舎の構造は、子どもたちのプライバシーを尊重し死角が多く、児童自立支援施設では珍しい造りとなっています。子どもにとって生活しやすいのは間違いありませんが、職員の目は行き届きづらくなります。問題行動が発生しないように、子どもたちと関係を築いていかなければならないと感じています。
ただ、施設の勤務体系や寮舎の造りはどうであれ、そこで働く人たちの子どもに対する思いや自分の職務に対する誇りなど、そういった思い一つで、色々なビジョンが展開される業務であることは間違いないと思っており、そう考えるとやはり人数などはあまり重要ではないと感じます。本当の意味での「家庭的」とはどういうことなのか、子どもたちにとって最善な生活とは何なのか、しっかりと考えていかなければなりません。
今回、初めて専門部会に参加させていただきましたが、何より、他施設の職員の皆様の生の声を聴くことが出来たことを大変嬉しく思っており、私自身日々の業務に一層努力して取り組んでいかなければならないと思っているところです。
この日のために準備していただいた秋田県立千秋学園の職員の皆様はじめ、関係の皆様に厚くお礼申し上げます。
望の岡分校教頭 神谷 博之
十九日(木)に全校作業を行いました。児童自立支援施設には、指導の柱が3つあります。「生活指導」「学習指導」「作業指導」です。望の岡分校が併設され、「学習指導」については主として分校が担っています。「生活指導」は、全国どこの施設でも同じように行っていることでしょう。入所生全員が寮で生活していますし、生活習慣の立て直しが必要な子どもたちばかりですから。そして、「作業指導」…。北海道家庭学校の醍醐味は、何と言ってもこれでしょう。全国に五十八ヶ所ある児童自立支援施設の中でも、ここまで力を入れて「作業指導」で子どもを育てようとしている施設は無いであろうと想像します。
普段は作業班学習といって、山林・園芸・蔬菜・校内管理・酪農の5班に分かれ、午後の学校日課の中で施設と分校が連携する形で作業学習を行っていますが、植樹や草刈など、たくさんの人手が必要な時には全校作業となります。十九日の全校作業は、礼拝堂とその周辺の環境整備(ちなみに、今年築九十九年の礼拝堂は、平成二十七年に道の有形文化財の指定を受けています)でした。全校作業は寮毎に行います。私が一緒に作業をしたのは、礼拝堂近くにある丸太の整理を担当する楽山寮でした。
子どもたちは施設に入所してから毎日体を使い、寮作業や作業班学習で様々な経験をしています。そんな日々を送る中で、どんどん逞しくなっているんだなあと実感しました。両手で抱きかかえるような太さの丸太を指さしながら、ニコニコ顔で「先生、僕、この丸太、運べるようになりました」と嬉しそうに話す生徒。「えぇー、すごいねぇ。先生には無理だなぁ。」と言うと、実際に丸太を運んで見せてくれます。そして、ドヤ顔でこちらを見ます。「おぉー、すごい。こんな重いの運べるんだ」と驚いていると、「これでやっと僕も楽山寮の一員になれました」と誇らしげな表情を見せました。
生徒が何気なく発した「寮の一員になれた」…。この一言が、施設での作業指導の成果を表しているように感じます。この子は確実に成長しているんだと思います。入所当時は一人では運ぶことができず、もっと細くて軽い丸太を運んだり、重たいものは二人組で運んだりしていたのでしょう。他の子が太くて重たい丸太を一人で運ぶのを見ながら、「すごいなぁ」「いつか俺だって」と思っていたことでしょう。それがいつの間にかできるようになって自信をつけ、周りの子や寮長先生に認められて、更に自信を深める。その積み重ねで、自己有用感、自己肯定感が育ってくるのでしょう。
この生徒に限らず、他の子どもたちもすごかった。いかにも重たそうな丸太を見つけて「先生、これ、俺一人で運べますよ」とか、私が腰を痛めないかとビビっていると「僕が運びます」と代わってくれたりとか、多くは語らないけど明らかに私の視線を意識して(認めてもらおう、褒めてもらおうと)大きな丸太を担いだりとか、まあ、みんな働くこと働くこと! それはそれはすごい活躍でした。更にびっくりしたのは、木の種類によって重さが違うことを理解していて、同じような太さの丸太でも、どの丸太が重いのかちゃんとわかっていることです。重たい丸太は自分で運び、軽い丸太は私に勧めてくれる。その気遣いが有り難かった。私には木の種類による重さの違いがわかりませんでしたから。また、寮長先生から「腐ってるのから運ぶぞ」と指示が出ると、「これ」とか「この下の」とか、ちゃんと見分けて運ぶ。表面的に明らかに腐っているならまだしも、私には、どの丸太を運べばよいのかまったくわかりませんでした。
これが、「経験の差」なのだとわかりました。経験を積むことで、「わかること」「できること」が着実に増えている子どもたち。施設(寮)では年季の長い子がリーダーとして全体をまとめ、手本となって新入生を育てる。施設は、寮長先生は、そこをしっかり考えて流れを作っている。私は施設の職員ではないので明言はできませんが、作業指導の中で子どもを成長させる流れが、北海道家庭学校の長い歴史の中でシステム化されているような気がします。バラバラの時期に入所し、バラバラの時期に退所する子どもたち。そんな不規則な在籍期間の中で、この流れが子どもたちの成長にぴったりはまっていると感じます。
今回の全校作業で、私は新入生の立場でした。周りの子どもたちが太い丸太を運ぶのを目の当たりにして、すごいなあと感じます。そして、木の種類による重さの違いや腐っている丸太の見分け方を学びます。自分も周りの子たちのようになれるんだろうかと思いながらも、数ヵ月後には経験を積み、体力もついて、周りの子と同じように作業することができるようになる。そこから「一員になれた」という感覚が芽生えるのでしょう。一員になれたことで自信がつき、寮長先生にも信頼されて難しい仕事を任されるようになるかもしれません。そのうち、色々な事を教えてくれた頼りになる先輩が退所し、次は自分が新入生のお手本にならなければ…という自覚が必要になります。こんな一連の流れが、子どもたちの成長にとても重要なのだと思います。そして、成長のためのターニングポイントが「一員になれた」という感覚なんだと思います。この感覚が掴めなければ、成長の手ごたえも、集団への帰属意識も、集団への貢献意欲も、未来への希望も、何一つ手に入れることはできないでしょう。
「一員になれた」と感じる瞬間…。それは、子どもたちが「自立と共生」に向けた未来への扉を、自らの手で開いた瞬間なのだと思います。
(望の岡分校だより『のぞみの』NO.29
平成30年7月27日号から転載させてい ただきました)
※ 編集者から
神谷教頭先生からは早くに原稿を頂いていたのですが、紙面の都合で掲載できずにいました。子ども達の「生活」と、「学習」にも組み込まれている「作業指導」について書いていただいており、作業班学習発表会があった今号での掲載とさせていただきました。