ひとむれ
このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。
職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。
※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
巻頭言
自立援助ホームに移りました
一年を振り返って
豊かな自然にいだかれて
校長 軽部晴文
私たちは、先月研修旅行に行きました、今年の旅行は旭川、深川、岩見沢、札幌、小樽に行きましたね。最初に訪ねたのは旭山動物園でした。この日は、天候にも恵まれて少し暑いくらいでした。水曜日の平日でしたが動物園には私たちのような観光客がたくさん訪れていました、外国からのお客さんの姿も多く見られました。あれだけ多くの観光客が訪れる旭山動物園ですが、少し前までは、来園者が少なくて、このままでは閉鎖されるだろうとまで噂されたのです。
来園者を増やすにはどうしたらいいのか動物園の人たちはいろいろ考えたそうです。以前の旭山動物園には私も何度か訪ねたことがありますが、ライオンやシロクマはいつ行っても眠そうな顔をして座ったままです、動きといえばたまに欠伸をするくらいです。ペンギンも羽をパタパタさせて遠くを見ていて、時々体をゆすって数歩歩く姿を見せる位でした。実際のライオンやペンギンがどんな姿をしているのかわかってしまうと、動きのない姿を見てもあまり面白くありませんでした。いくら百獣の王と言われるライオンでも、目の前にいるライオンがただ座ってあくびばかりしていたのでは迫力を感じません。面白くなければ訪れる観光客も増えないのは当然と言えば当然だと思えますし、このままでは閉園になってしまうと噂されても当然な状況だったのです。
動物園の飼育員の人は動物が好きでよく観察しますから、白くまやペンギンが元々どんな能力を持っているか知っています。ペンギンは鳥の仲間ですが飛ぶ事ができません、陸上では活発に動くことはなくても、水中では全く違う姿を見せることを知っています、もし、来園者に水中のペンギンの姿を見てもらうことができたら、来園者に驚いてもらえるに違いない、ペンギンに興味を持ってもらえるに違いないと考えて、水槽の下にトンネルを設けて水中の様子を観察できるようにしたところ、ペンギンが水中をまるで飛んでいるかのように泳ぐ姿を見てもらえるようになりました。
カバは皮膚が乾燥に弱いので、ほとんどを水中で過ごすのだそうです。だからカバの全身を見る機会が少ないのですが、陸上にいる姿を見る事が出来ないのであれば、水中にいる姿を観察できるようにした所、水中をダイナミックにイキイキと泳ぐ姿を見る事が出来るようになりました。
来園者を増やすために、旭山動物園が取り組んだのは、動物に特別なことをさせようとしたのではありませんでした、カバやペンギンなど、その動物が元々持っている一番生き生きとしている姿を来園者に見てもらえるように、見せ方を変えたことでした。これまでの動物の見せ方と違う方法に変えた事が評判になって全国や海外からも多くの観光客が訪れる動物園になりました。
話は変わりますが、実は私たちも一人一人が何かしら素晴らしい魅力を持っていると思うのです、自分の魅力に気づいている人も、まだ自身の魅力に気づいていない人もいるでしょう。もしかしたら魅力を発揮できる条件がまだ揃わないだけの人もいると思います。皆さんの中にも、学習が得意だという人、スポーツが得意な人、作業ならちょっと自信がある人がいるでしょう。得意かどうかは自分が決める事で、自分がそう思えば良いのです、他の誰かと比べる必要などないのです。得意だと人に向かっては言えなくても、好きだと思う事ならあるという人もいるのではないですか。サッカーが好きだ、絵を描く事が好きだ、上手い下手は関係ありません、サッカーボールを蹴っている時が一番好きだ、ボールを蹴るのは上手くないけれど、サッカーの試合を見るのが好きな人もいるでしょう、スケッチブックに向かって筆を動かしていると嫌なことも忘れて集中できる。その人にとって得意な事や好きな事、集中できる事があるのは素晴らしい事です、そのようにすでに夢中になって取り組める事に出会えた人はそのことを大事にしてください。ぼくはまだ出会えていないという人は慌てて探さなくてもいいですよ、いつかきっとそういう事に出会える日が必ずやってきますから。
私は皆さんに、少しでも自信をつけてほしいと願っています、家庭学校に来る前は、自分が周りの人にどのように見られているか気になっていませんでしたか、周りの目を気にするようになると、だんだん自分に自信を持てなくなってしまいます、周りの人にカッコよく見られたい、何でも出来る人間と思われたい、そんなふうに考えてしまうと、自分の実力以上の自分を作り出してしまう。自分が自分でなくなってしまう、それはとても危ういことです。それは自分の中の弱さの表れ、自信のなさの表れではないですか。そう言うあなたの姿はいつか周りの人に見抜かれてしまいます。
私は、君たちに家庭学校の生活を通して自信を付けて貰いたいと考えていますが、自信を付けて貰う為に特別なことをここでやってもらおうとは考えていません。ただ君たちに普通の生活を送って貰いたいと考えているだけです。普通の生活とは、規則正しい生活、自分の役割と向き合う生活、仲間たちと協力し合う生活、そのような普通の生活を送って貰いたいと考えています。そういう普通の生活がいつの間にかあなたたちに自信を付けてくれるはずです。特別ではない普通の生活を送ることで、あなたたちが魅力を持った存在になれると私は信じています。
がんぼうホーム長 楠哲雄
今年度より長年勤めてきた児童自立支援施設を離れ、自立援助ホーム「がんぼうホーム」に勤めることになりました。人間味溢れ尊敬できる素晴らしい先生方との出会いや子ども達と一緒に生活し充実した時間を送らせて貰ったこと、社会人として育ててくれた児童自立支援施設には感謝しかなく、その感謝に報いるためにも最後まで児童自立支援施設でやり遂げようと家庭学校に来ましたが、昨年度末に同法人の自立援助ホームへの異動を打診され、迷いもありましたが児童自立支援施設を離れることを決めて引き受けました。
児童自立支援施設を離れる寂しさはありますが、自立援助ホームに関心がなかったわけではなく、退所児童の予後を指導してきた時、施設内と同じくらいの支援か、もしくはそれ以上の支援が必要と感じこともあり、その中で自立援助ホームの支援に関心を持ち見学させて貰ったこともありました。
また、今まで退所した子が躓いた時、目の前にいる子どもへの対応から十分な支援が出来ず、必要な時に関わりが持てなかったことを悔やむことがありました。本来ならば施設を退所した時に躓かないよう指導しておかないとならないことで、自分の力不足が原因ではありますが、子ども達にそこまでの力をつけさせることが出来ずに同じ失敗を繰り返えさせてしまったり、挫折させてしまったりしました。今回、施設と社会の中間的な立ち位置にあると思われる自立援助ホームで、児童自立支援施設の卒業生や似たような立場の子ども達と関われることは、今まで自分が力を注ぎたくてもやれなかったことなので、このような機会を頂き有難く思いました。
まだ半年しか経っていませんが、しっくりこないのが子どもとの関係です。児童自立支援施設では一緒に運動や作業をし、子どもと時間を共有して関係を作ってきましたが、自立援助ホームでは、何かを一緒にすることもあまりありませんし、限られた時間での対応のため、今後どのような関係が作れるか不安であります。今のところ子どもとの間に距離を感じてしまい相手の懐に踏み込んでいくことができていないのが現状です。支援の土台には子どもとの良好な関係が欠かせませんので、ここではどんな関わり方が出来きてどんな関係が築けるのか模索していこうと思います。
また、当初は子どもが自分で気付くまで長い目で見守っていこうと思いましたが、それだけでは難しいように感じました。ここで枠を作るつもりはありませんが、子ども達が社会に出ても大切にできる自分自身の枠は社会に出る前に身につけてもらえるよう支援したいと思っています。
あまり自信のない状態でやっていますが、今まで児童自立支援施設で良くも悪くも何とかやってくることができたので、寮舎と同様3年ぐらいやれば、ある程度自分が描くホームが出来ると信じ、焦らずにやっていきたいと思っています。
本館職員 大里真子
昨年の九月から栄養士が産休・育休に入り、食育・給食業務を一部引き受け、主に献立作りを今年の十月まで行いました。約五年間給食業務に携わってきたので最初はできそうなつもりでいました。しかし、いざやってみると家庭学校で採れた野菜やフードバンクから提供を受けた食材を活用するメニューを考えたり、メニューに偏りがないか、手順が多いと週はじめには入れることができない事情等を考えると献立作りにかなりの時間がかかり、慣れるまで大変でした。元々家庭学校に就職してから料理をするようになったので、メニューを考えるというのもレパートリーが少なく、本やネットで調べたり、色んな人に聞き、悩みながら献立を作っていました。
月に一度、給食運営会議が開かれ、献立が決まります。九月からは一人で作った献立を献立会議に諮り皆さんから意見をたくさん述べてもらい、とても助けられました。ベースはあくまでも自分で考えて提示していましたが、給食運営会議で更により良い献立になり、皆で一丸となって作れた気がしました。周りの職員や調理員の方々にアドバイスを頂きながら一ヶ月、一ヶ月なんとか乗り越えることができました。とても感謝しています。
十一月に新しく本館職員が入職しました。タイミングが良く、私の業務の自立支援事務等を手伝ってくれました。そのおかげもあり、献立づくりに集中できる時間も増えました。半年経った頃ぐらいから少し余裕が出てきて新メニューを考えたり、昔のメニューを復活させてみたりと色々なことをしました。周りの方々には苦労させてしまったかもしれませんが、協力的で前向きに取り組んで下さいました。復活メニューの一つだったジャージャー麺がとても評判が良く、定番メニューに返り咲くことになりました。給食棟で子ども達が美味しそうに食事している姿を見るとホッとするし、励みになりました。
長かったようで短い内容の濃い一年でした。とてもやりがいのある仕事でした。学びも多く、食に対する思いも自分の中で大きくなった気がしました。十月から献立作りからは離れましたが引き続き給食棟に入るので微力ではありますが、食育・給食業務の向上に努めていきたいと考えています。
望の岡分校教諭 植野真樹
雪の便りが聞こえてくる今日この頃になりました。思い起こせば雪解けの香りが漂う4月に望の岡分校に着任しました。季節は移ろい春がゆき、猛暑の夏を過ごし、短い秋が去りゆき、冬を迎えようとしています。気づけば7か月の月日が、あっという間に過ぎていきました。これまでの教員生活20数年は中学校を渡り歩いてきました。はじめての小学校ということもあり、日々、悪戦苦闘が続いています。目の前の子どもたちに何ができるのか…自問自答を繰り返す日々を送っています。しかし、見方を変えれば、新しい経験を積み重ねることで、これまでと違った視野が開け、自己の教育観や人生観が進化していることも事実です。子どもたちと広大な家庭学校の敷地を歩いてみます。豊かな自然が私たちの心を包み込んでくれます。双眼鏡をもって野鳥の観察に行きました。さえずりや美しい姿から野鳥の名前を覚えました。おいしい山菜をとりました。クワガタやカブトムシを捕まえて飼育して直に生命にふれました。校内を流れる川にサクラマスが遡上してきたので観察にいきました。オホーツク海から家庭学校までの距離を考え、はるかな旅路に思いをはせました。四季折々に自然が織りなす現象すべてが教材であることを改めて実感しました。私は、幼いころから山や川など自然で遊びながら成長してきました。大人になった今でも、釣りをしたり、虫を採ったり、野草を観察したり、自然の中で過ごすことが大好きです。こういった自然との関わり合いの中で、人は人として成長していくと考えています。自然の中にいると人はありのままの自分でいられます。そうすると心のささくれや何気ない悩みや不安も消えていくように思います。家庭学校のホームページに記載されている「自然の感化力」の一文に心が打たれました。「自然と人間が調和して、自然はいよいよ美しく、人間は優しく謙虚なのです。自然と人間が敵対すれば、自然はたちまち荒廃し、人間は退廃するのです。」自然の素晴らしさ、美しさ、大切さを子どもたちに伝え、自然から学ぶ、これが私の教育の原点です。家庭学校の自然と教育は、私に原点を取り戻させてくれるように感じています。
作業班学習でも、いままで薪つくりにしか使ったことのないチェーンソーで木を切り倒したり、山の手入れをしたり、これまでにない体験をしています。職員玄関から本館に入るとすぐに「流汗悟道」の書が目に入ります。「人間は汗を流して、初めて何かがわかってくるのです。多くの人々の世話になっていること、助けを受けていることなど、自ら汗を流して体験しなければ、何も分からないのです。怠惰では人の心やその活動を理解できないのです。」この言葉にも大きな感銘を受けました。子どもたちと一緒に汗を流して、はたらくことで生きるということの意味を考えるようになりました。
ひとりの人間として、子どもたちに何ができるのか。考えても考えても明確な答えは見つかりません。しかし、常に考え続け、その時その時にできることを一生懸命に取り組んでみようと考えています。家庭学校の職員の皆様や分校の同僚のみなさんに、ご迷惑をおかけすることが多々あると思いますが、自然の中で、自然の移ろいを感じながら、いまできることに全力で取り組み、子どもたちに寄り添っていきたいと考えています。