ひとむれ
このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。
職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。
※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
巻頭言
前途有為の青壮年を求めます
酪農班百周年
作業班の活動
山林班
校長 仁原正幹
前二号で変革の事例を四点ほど具体的にご紹介しました。実はそれらのことにも付随・関連しているのですが、男性職員・女性職員間の格差解消なども含め、職務上の立場や責任、あるいは就労条件等についての見直しを行い、組織・機構全体の再構築を図っています。北海道家庭学校新世紀における児童自立支援業務が一層組織的に、機能的に進められるような仕組みになったと思います。
本館の中に教務室という大きな部屋があります。正規の学校教育が導入された六年五カ月前から、望の岡分校の教職員と家庭学校の直接処遇職員が同じ部屋で机を並べて仕事をしてきました。二つの組織の緊密な連携を図るためにはこの環境が欠かせません。ところが人数の割に狭小なことが難点で、教員・職員の皆さんにはこれまで大変窮屈な思いをさせてきました。また、家庭学校職員の中にこの教務室に居場所がない人がいました。スペースの関係で寮母や職業指導員、心理士等の机を置くことができず、毎朝の打合せや日常的な情報交換にも支障を来していました。
前々号で寮母の呼称を「奥さん」から「○○先生」に改めたことをご紹介しましたが、家庭学校の正規職員としての立場を自他共にしっかりと認識した上で、さらに活躍の場を広げてもらうために、寮母も含めた直接処遇職員全員が机を並べられるように、春休みの間に教務室の拡張工事を行いました。隣の中一教室との間の壁をぶち抜いたのです。
さて、教室を一つ潰してしまったので、分校の授業に支障を来し、ご迷惑をおかけすることになりました。年度初めに一気に人数が減少した小・中学生ですが、それでも教室が不足しては子ども達に影響します。望の岡分校では特別支援教育も行われており、また、学年別と並行して教科によっては習熟度別のクラス編成も行いながら細やかな学習指導が行われているので、一つ一つのクラスの人数は少なくても教室の数は多ければ多いほどよいのです。そこで、夏休みの間に 本館裏の土手を削って小さめの教室を二室増築しました。二学期からはより快適な環境で集中力を切らさずに勉強に取り組むことができ、遅れを取り戻しやすくなると、校長としては大いに期待しています。
「伝統の継承と変革」というテーマで四回にわたり書いてきましたが、変革の事例については小さなことに過ぎません。連載の一回目にも記したとおり、北海道家庭学校には百年間脈々と受け継がれてきた確かな伝統があります。大事な伝統を護り続けていくことについては微動だにしない覚悟を持っています。
校長 仁原正幹
止むに止まれぬ思いから、巻頭言の次のページにまで浸食して、職員募集の急告をさせていただくことにしました。
北海道家庭学校の確たる伝統としては、何しろ百年の間に醸成されてきたものですから、一言では言い表せないようなたくさんのものがあり、素晴らしい遺産として引き継がれてきています。この春、築九十六年の礼拝堂が北海道の有形文化財に指定されましたが、それに対して無形文化財とも呼べるような数多の叡智が継承されてきています。
その中で、特に私が大事に思っているものとして、①小舎夫婦制の寮運営、②作業指導に重きを置いた支援方策、③子どもの人権擁護の徹底の三つがあります。②と③については、追々巻頭言の中で触れさせていただくつもりですが、今号ではとにかく時間的な余裕もないことなので、取り急ぎ①の小舎夫婦制に関わること、職員募集について書かせていただくことにしました。
小舎夫婦制につきましては、創立当初から家庭であり学校であることを目指した北海道家庭学校が嚆矢のようなシステムで、かつては全国の教護院の主流でありました。ところが、おそらく適時に適材が得られないからでしょう、時代の変遷とともに交替制への転換が進み、小舎夫婦制を維持している児童自立支援施設は全国的には三割程になっています。
児童自立支援施設にやって来る子ども達の中には、家庭環境に恵まれず、特定の大人(一般的には両親)との間で愛着関係が十分に形成されなされなかった子どもが多く含まれています。幼少期の愛着形成不全がその後のいろいろな問題行動につながっているケースが非常に多いように思うのですが、そういった子どもにとっては、疑似家庭のような小舎夫婦制の寮の中で、特定の大人(寮長・寮母)との間で愛着関係が形成され、育ち直りをすることが、その後の成長に大変有益であり、小舎夫婦制は何ものにも代えがたいシステムだと考えています。
その小舎夫婦制の寮ですが、北海道家庭学校では現在稼働中の四寮のうちの一寮が、この春からやむを得ず夫婦制を中断して交代制で凌いでいます。
当校のウェブサイトでも募集していますし、この苦境を心配された北海道新聞遠軽支局の佐藤圭史記者によって地元オホーツク版に大きく取り上げていただきましたが、今のところ応募も少なく、適材が見つかりません。児童福祉に係る資格要件や経験もあった方が良いのですが、そのことよりもむしろ子ども達への熱い思いや意欲の方が重要だと、私たち北海道家庭学校は考えています。直ぐには夫婦制の寮舎を担当できない独身の方でもご照会ください。年齢、性別も問いません。前途有為の青壮年を求めます。
職業指導員 蒦本賢治
昨年、北海道家庭学校は創立百周年を迎えました。当施設に乳牛が導入されたのは創立の翌年と記録されていますので、家庭学校の酪農部門が始まってから今年で百周年ということになります。今年度から各作業班は○○班と呼ばれることになり、酪農を担当する酪農部も酪農班と呼ばれることになりました。
最初、ホルスタイン種2頭の導入から始まり、現在は成牛22頭、育成牛15頭のホルスタインとジャージーを飼育しております。ジャージー種導入の経緯は伝わっておりませんが、私が職員としてここに来た時には1頭の経産牛と2頭の初妊牛がおりました。それらが人工授精、繁殖を経て、現在では10頭の経産牛と育成牛がおります。
飼養頭数は一般的な農家と比べると小規模です。一時期は、一般農家を上回る規模であったり、同程度だったこともありますが、家庭学校は増頭、増産、大型機械化の波に乗らず、一定以下の規模を維持してきました。利益を追求するための酪農経営ではないということもありますが、農家ではないので牧草地を新規に取得できないのも規模を拡大しない理由の一つです。
牧草地は約22haを利用し、そのうち8haを放牧してます。ここでいう放牧とは夏の間に地面から生える草を直接牛に食べさせて牛を飼うことです。この方式は、大規模化につれて少なくなりましたが、見直されて放牧を行う酪農家も再び増えてきています。残りの草地を採草地として冬季間の貯蔵飼料としています。
毎日、300~500kg程の牛乳を生産、その大半を森永乳業に販売し、10kg前後を生徒の飲用等としています。牛舎から寮舎まで牛乳を運ぶのは生徒の朝作業の一つとして、担当の生徒が毎朝取りに来ます。搾乳機械のモーター音がけたたましい中、作業中の私たちに元気よく挨拶をして、牛乳缶を持っていきます。
冬は自家産乳でバター500本程度を製造します。1本225gのバターを作るには5kg程の生乳を使います。バターは自家消費用で、現在、販売はしておりません。
生徒は現在、直接的な生産現場である搾乳には立会わず、週に3回酪農班に所属する生徒が給餌や除角、牛舎や草地の環境整備、その他の牛の世話などをします。冬にはバター製造を生徒と一緒に行います。夏には牧草を天日乾燥させ1個15kg程のブロックにしたものを「梱包」と称し、生徒はそれを運ぶ人員として生産の一部を経験します。
家庭学校にはかつて、牛の他にも、馬、豚、鶏などの家畜がおり、一大畜産部門を形成しておりましたが、おそらく経済的な理由で現在は家畜は乳牛だけになりました。動物の飼育をとおして、命の大切さ、生命の営み、自然の摂理を覚え、生産をとおして、社会や経済を学ぶ機会を子供達に与えることは家庭学校の教育の大切な要素です。それをこれからも継承していくのが酪農班の現在の役割と思っています。
職業指導員 蒦本広美
酪農班の作業は、まず牛舎に向かうところから始まります。本館前での点呼のあと、木々のトンネルを下り、牧草地を横に見ながら歩き、蔬菜部畑と放牧地の横の坂を登ると牛舎が見えてきます。ここまで1キロ弱およそ10分間の道のりを、生徒たちと一緒にその日の作業の内容や寮や学校での事を話しながら歩きます。そのあいだに生徒の体調や気分を見たり、分校の先生から授業中の様子を聞いたりします。他の作業班ではトラックなどで移動する事も多いけれど、酪農班は殆どが徒歩のため時間のロスかなと思う時もあるのですが、普段生徒と関わる機会がほとんどない私には、貴重な情報入手の時間です。
分校が入ってから、作業班で活動する大人の数が増えました。生徒の数が減った事もあって、酪農班ではだいたいマンツーマンで作業ができ、目も手も声もかけやすくなりました。近年入校する生徒は精神科に通っている事も多く、すぐ不安定になる生徒や障害を持つ生徒などはこれが中学生の態度かと思うような幼い反応をしたり、気分のムラや集中力のなさが目立ったりと目が離せない事も多く、また在校年数も短くなっているせいか、体ができていない、作業に慣れていないという生徒も増えてきているため、大人が増えてとても心強いです。
そんな中、分校の先生方は生徒への声かけが上手です。特に褒めるのが上手で、さすが「学校の先生」といった感じで、私もそんな風に生徒に接していきたいといつも目にするたびに思うのですが、これは生徒一人一人をよく見て気にかけているからできていることなのだと思います。「落ち込んで腹が立ってたけど立ち直った」とか「頑張ったらいろんな先生に褒められて嬉しかった」など、作業後の感想に書いていたりするのを読むと、生徒は大人が見ていてくれるとわかっていてうるさそうなふりをしながらも安心しているんだなと思います。と思っていたら、かまってほしくてずるずる甘えたりというちゃっかりしたところもあるのですが。
生徒たちはそれぞれが様々な境遇で育った背景を持ち、毎日をこの限られた空間の中で生活しています。偏った考え方や年齢より幼い考え方の生徒も多く、辛抱強く語りかけ、褒め、見守っていく必要のあることが、作業班の中の人間関係を見ているだけでもわかります。私が関わっていけるのは子供たちの人生のほんのわずかな期間ですが、少しでも支えになれるよう丁寧に向き合っていきたいと思います。
児童自立支援専門員 高橋徹
2学期が始まった。今学期も作業班が編成され、生徒は各作業班に振り分けられた。山林班も新しい生徒での出発となり、生徒も心機一転新しい作業に向き合い自分の適性を探すことになる。山林班は学期最初の作業班学習に於いて必ず安全講習会を行っている。山林部の主担当職員が当該学期の安全と無事故を期して行う非常に大切な作業である。
今学期は石上館のK君と掬泉寮のM君の二名が山林班で頑張ることとなった。
K君はまだ新入生であり、山林班に所属することも初めてである。そのため安全に対しての心構えと具体的な方法を丁寧に理解させながら進める必要がある。せっかく講習しても理解させていないのでは意味がないからである。K君はまだまだ普段の作業での動きは努力を要するようであるが、その分これからの伸びを期待することができる。夏期休業中の行事でいろいろ関わる機会が多かった生徒であるが、とても素直に人の話を聞く事が出来る生徒であった。山林作業についても一つ一つ作業を覚えてしっかりした結果を残して欲しいと思っている。M君は2回目の山林班であるが、慣れを防止して更に安全に作業するための講習とした。M君は一群会理事の経験もあって、ある程度作業の経験も積んでいる。しかしそのレベルに止まることなく将来の進路に向けて率先した作業と態度を継続して是非作業賞を取得して欲しいと願っている。
今学期は夏から冬の初めにかけての長い学期である。山林班の作業も伐木や草刈りから始まって除雪まで行う事になるであろう。そのため除雪時の注意事項についても教えておく必要がある。家庭学校では屋根の雪下ろしも生徒が作業で行うからである。危険を想定・予想して安全に対しての意識付けを行っていかなければならない。ほかにも今学期は作業班学習発表会がある。1学期と2学期の作業班作業の成果や作業班で学んだ知識や作業方法を発表する場である。山林班は1学期に頑張ってくれたI君が他の作業班に転出してしまったため、K君とM君を中心に2学期からの作業を中心に発表していくことになると思われる。
家庭学校には豊かな自然に包まれている。もうすぐ秋はすぐそこまで迫っているが、家庭学校の秋は非常に豊かな実りがある。普段から生徒達が汗水流して農作業を行っている畑はもちろんであるが、畑でなくても裏山に行けば様々な実りがある。代表的なのはヤマブドウである。もし、今年も沢山の実りある年であれば山林班でヤマブドウを採取して実りの味を楽しむことも考えている。また、コクワも豊富である。コクワは数が少ないため貴重な山の実りであるが、楽しく採取することができる。裏山の実りの経験は畑の作業だけでは得難いこれらの秋の実りを満喫することも人格形成の上で大切な学習であると考えている。また、そういった経験をすることで自然に対しての興味を喚起し、将来豊かな人間性を育む源になると考えている。