ひとむれ
このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。
職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。
※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
巻頭言
運動会を実施して
今年度の蔬菜班
園芸班の担当になって
小学部担任となって
種まきで学級開き
校長 仁原正幹
前号で伝統の継承について書きましたので、今号では変革についても若干記載したいと思います。北海道家庭学校の新世紀がスタートした今年度から、長い間慣れ親しんできたいくつかの呼称について、一部変更することにしました。
一点目は職種の通称です。児童への直接処遇を行う自立支援部の職員の中で、寮長・寮母などのいわゆる「寮職員」に対して、寮を担当しない職員については、これまで「フリー職員」と呼ぶ習わしがあったようですが、これを「本館職員」と呼ぶことにしました。「フリー職員」という言葉の響きが、寮長・寮母見習い期間中の印象や、「寮職員」よりも責任が軽いような印象を自他共に与える懸念があったので、主たる活動場所としての「寮」に対して「本館」という言葉を用いて二つの職種の区別を図ることにしました。また、この呼称変更に合わせて、各作業班の班長には「本館職員」を当てるなど、「本館職員」が作業や各種行事について名実ともに重い責任を担うように業務分掌も見直しました。そのことにより「寮職員」が寮の運営に可能な限り集中できることもねらいとしています。
二点目は児童の役割に関する呼称です。これまで『朗読会』の作文の中で、時折「親」という表現が出てきたので馴染みの方もおられると思いますが、家庭学校では新入生の世話をする児童のことを「親」、新入生を「子」と呼ぶ風習がありました。小舎夫婦制の寮の中で、本来「親」の位置付けは寮長・寮母であるべきとの思いもあって、私は少なからず違和感を感じておりました。また、「親」と「子」の呼称が、江戸時代から近代まで続いた鉱山労働者(抗夫)の組合制度による一種の身分制度である「友子制度」(親分子分の関係を持つ)の名残と推測され、現代のしかも児童福祉の枠組みには合わなくなってきているのではないかと考えたことから、「親」を廃して「世話係」と呼ぶことにしました。
三点目は、児童から職員への呼称に関するものです。家庭学校では寮母など夫婦職員の妻の方について、子どもから「奥さん」と呼ばせていましたが、疑似家庭の母親役である寮母に対して、「お母さん」でなく「奥さん」と呼ぶのは妙によそよそしく古風な感じがすること、また、「奥さん」の言葉の響きが単なる寮長夫人であって正規の職員ではないような印象を自他共に与えるおそれがあると考えたことから、他の職種の職員と対等な正規の職員として、児童から「△△先生」と下の名前で呼ばせることにしました。他の職員は従来どおり「○○先生」と上の名前で呼ぶことに変わりありません。
楽山寮長 千葉 正義
6月14日に家庭学校・望の岡分校の運動会が行われました。あいにくの曇り空で、6月にしては少し肌寒い1日でしたが、無事開催することが出来ました。
今年度運動会を担当させていただきました。何度も運動会を経験しているものの全体を総括するのは初めてで、また、今年は、例年にないほど生徒の数が少なく、昨年より2週間時期を早めての実施ということもあり、手探りの中で練習が始まりました。
家庭学校の子どもたちは一つの物事に集中して取り組むことが苦手です。それに加え、小中学生、中卒生合わせて13名という少人数では今一つ盛り上がりに欠け、最初は非常に気だるそうに練習に取り組んでいたのが印象的でした。
ただ、きっと心のどこかでは目立ちたいと思っているはず。大勢のお客さんの前で良いところを見せたいはず。それを上手く表現するのが少しだけ苦手で、本当は出来るのに少しだけ自信が無いというのも家庭学校の子どもたちです。どのようにやる気を引き出すか、当日までにモチベーションを上げていくかを考えました。非常に頭を悩ます所ではありましたが、分校の担当職員と話し合いを重ね、練習や競技に工夫を凝らしたつもりです。
まずは、周囲の職員が子どもと一緒になって盛り上げていこうと考え、例えばダンスは担当職員を中心に、分校職員・家庭学校職員が授業や業務の合間を縫って練習し、子どもたちに教える際になるべく多くの職員が一緒に踊れるような状況をつくり、柔軟に対応できるようにしました。
今年の新種目「おやつの時間だよー」は、ジュースを飲みうまい棒を5本貰い、最後に吊るされたお菓子を口で取り、くわえてゴールするこの競技は、頑張っている子どもたちへのご褒美という思いを込めたものでもあります。
運動会は家庭学校、望の岡分校の共催の行事であるため職員間の連携が不可欠となります。そのためほぼ全ての競技の担当に家庭学校職員と望の岡分校職員を配置し、連携を取りながら練習を進めてきました。
練習期間はあまり天候に恵まれず、雨続きでグラウンドでの練習が殆ど出来ませんでした。それでも、本番が近付くにつれ徐々に表情が変わっていく子どもたち、当日は自信満々でダンスを踊り、精一杯走り抜き、真剣に取り組む様子が見られたのではないかと思っています。
今年度も無事に運動会を終えることが出来ました。見学にいらして下さいました地域の方々や御来賓の皆さま、保護者の皆さま、最後まで温かいご声援をありがとうございました。この場をお借りして厚くお礼を申し上げます。
主 幹 鬼頭 庸介
今年度は、蔬菜班でもビニールハウスが一棟、本来ならば石上館で使うものを使わせてもらえることになり、昨年できなかった果菜類をハウスの中で作っています。まだ雪の残る3月初旬にトマト、ナス、ピーマン等の種をセルトレーに播き、日当たりがよく、暖房も効いている職員室や分校の教室の一角を借りて温床マット上で発芽、育苗しました。ここで失敗すると給食棟に供出したり、各寮に配る苗を購入するか諦めるしかないのでポットに移植するまでの間、かなり神経を遣いました。寮に入って自由に動けないときなどは、幸いにも分校の先生や調理師さんに手伝ってもらいました。
お陰様で苗は、まあまあ順調に生長し、5月の連休明けあたりからハウス内に定植し、各寮等にも配ることがでました。5月は青空の日が多く、天候にも恵まれて、このまま順調に育つかと思っていたところ、6月になってから雨や曇りの日が多く、更に低温と日照不足で道東の気候は一筋縄では行かないことを改めて思い知りました。
新年度になってから、石上館寮長と児童が蔬菜部に所属しているため、石上館に近い桂林寮の前の畑を開墾し、なるべく石上館の児童が朝夕の作業で水やりをしたり、草取りをしながら作物の生育状況を毎日のように見たり関わったりできるようになりました。この圃場には今、ニンジン、ダイコン、キャベツ、ブロッコリー、レタス、ほうれん草、サヤエンドウ、エダマメ、インゲン、余った苗でのトマトとトウモロコシが生育中です。
昨年、近隣の馬牧場からいただいた馬糞堆肥をまいた神社山の圃場では、スナップエンドウ、ジャガイモ、トウモロコシ、タマネギ、カボチャ、大豆、小豆、金時豆、白花豆、紫花豆などを作っています。神社山の方が広いので、たくさん作っても保存ができ、毎日水やりをする必要のない作物を選んで栽培しています。どちらの畑でも元肥に馬糞堆肥をうない込み、追肥には油粕か鶏糞を使っています。今年は、それに加えて分校の先生の関係でいただいた米糠とサロマ湖岬の漁師さんから分けてもらったカキ殻とホタテ貝殻を利用し始めました。米糠は昨年集めた落ち葉を発酵させるためのものですが、肥料としても使っています。貝殻の方は、雨の日などの作業で小屋の中でハンマーなどで粉砕してカリ肥料として使っています。また、豆類については、在来種豆を専門に扱っている遠軽町内の店で手に入れて栽培しており、特に白花豆はどんな花が咲くのか楽しみにしています。
子ども達は新しい児童が多いのですが、少しずつ作業にも慣れて来て、私も楽しくできています。有機無農薬での野菜作りも序々に浸透してきており、作業班学習以外の時間でも石上館、掬泉寮の寮長が快く児童を出してくれます。また、分校の先生方の協力がなければ終わらせることができなかった作業もあり、寮長や分校の先生方には深く感謝しています
児童自立支援専門員 陳 浩
今年度から家庭学校の体制が変わり、これまでの寮長中心だった作業班活動から、本館職員が主担当になるという体制になりました。そして、去年一年間を校内管理部に所属していた私は、今年度からは園芸班の主担当になりました。園芸の作業については、昨年はお手伝いで何度か参加した程度でしたが、花や園芸の知識が全くなく、花の名前ですら分からないため、務まるかどうか非常に不安でした。そこで、昨年の園芸部活動を担当していた先輩職員を頼りにしていました。
家庭学校には、正門前の大花壇から、本館前、グラウンドの横など、数多くの花壇があります。また一年の作業内容としては、春の土づくり、種子撒きから仮植や植え付け、夏の雑草取り、秋の収穫(ドライフラワー作り)や花壇の片付けまで、そして日頃の水やりや花壇の手入れなどで、年間を通して作業の量は非常に多いです。また、家庭学校の暫定定員が前年度の37人から今年度は32人と下がり、園芸班に所属する児童は新年度になって2人と、家庭学校職員2人と分校教員2人という計6名体制でのスタートとなりました。(注‥今年度「部」を「班」に変更)
「園芸なんかつまんない」、「虫が多いし、土が汚い」、「温床の中は暑くて、やる気が出ない」という生徒の声から、四月の園芸班の作業が始まりました。言葉の通り、虫が飛ぶとそれに気を取られたり、晴れの日に暑さでばててしまったりし、生徒が集中して作業に取り組むのが難しかった。
あれこれ言いながらも3ケ月がたち、ベゴニア、マリーゴールド、そしてペチュニア、インパチェンスなどの花を生徒と一緒に作業をしながら覚えました。また、ようやく春に撒いた種も成長し、花が咲き始めたころに、園芸班に新入生も加わりました。そして、花とともに成長している生徒の姿が見えてきました。初めの頃はすぐに集中力が切れて、ふらりといなくなる生徒が、指示に従って花壇周辺の草刈りに集中したり、黙々と花の植え付けに励んだりする姿や、「僕がやります」と言い、自ら作業に進む姿を見ると微笑ましくなります。
早々と一学期は3/4が過ぎましたが、花壇づくりの作業はまだまだたくさんあります。6月中に花壇を完成させるという目標には達成できなかったことは残念ですが、一学期終了までには何とか完成させたいという生徒の気持ちが伝わってきます。このモチベーションを維持し、生徒と一緒に自然豊かな家庭学校に花を咲かせていきます。
小六担当 吉村 憲彦
小学部担任となって3か月がたちました。たった3ヶ月ですが、楽しい思い出がたくさんできたので一部紹介します。
Kさんは数学が大の苦手、小学校3年生下の教科書から学び直しすることになりました。少しずつ進めていこうと思っていたら、ぐんぐん教科書を進めています。この間、算数の時間、始まって15分ぐらいでボールペンを分解し、ぐりぐり落書きを始めました。すぐ止めなければならなかったかもしれませんが、授業が始まって15分たっていたこと、それまで集中して学習していたことから、すぐにやめさせず、少し待ってあげることにしました。しばらくすると、Kさん自身から「今授業中だった。勉強しなくちゃ。」といってボールペンをしまい、勉強を再開させました。びっくり!!いままで、そんな子見たことありません。たぶん、今までは大人に注意されてやめていたことが多かったと思います。それが、自分からやめられるなんて、家庭学校に来ることで、学力や体以外にも心もどんどん大きくなっているんだなと感じました。
私事ですが、5月15日(金)に44回目の誕生日を迎えました。誕生会では、Kさんに、「いつもいっしょにいてくれて、ありがとうございます。」とお祝いの言葉をいただきました。さらに、Kさんから、誕生日プレゼントをいただきました。折り紙が貼ってある誕生日カードと折り紙で作った私の顔です。誕生日カードにはメッセージもあり、いつもより上手に字が書けていて、丁寧に作ってくれたことが分かりました。とってもうれしかったです。僕の顔は、白髪がなく、とっても若く作ってくれました。とっても嬉しかったです。ありがとう!
「朝食に合うおかずづくり」という単元で、調理実習を行いました。Kさんの担当は、「玉ねぎを切る」と「ソーセージを切る」でした。当初、包丁を持たせるとけがをするんじゃないかと心配しましたが、思ったより上手に包丁を使っていました。そして、「目が痛い」と言って泣きながら、玉ねぎを切っていました。次は、ソーセージを切りました。たこさんウィンナーや、かにさんウィンナーの切り方を習い、力加減を考えながら、上手に切ることができました。材料がそろったので、炒める作業に入りました。菜箸をつかって野菜に火が通っていることを確かめながら具材を入れ、上手に炒めていました。当然味付けもKさんが担当しました。味見を何度もしながら塩こしょうを足していく姿が印象に残っています。最後に盛りつけて完成です。とてもおいしかったです。
6月から、新しいお友だちYさんが、小学校教室に転校してきました。とっても元気のいい、かわいい男の子です。お友だちが増えたことで小学生教室もにぎやかになりました。これからも2人仲良く、生活してくれることを期待しています。
中一担任 丸尾 恵
小学校六年生の冬に来たYさんは、ツツジ教室で野菜の苗を育てていることに興味を持って、前を通るたびに苗を見て話をしていました。四月からは中学生ですが、中一は、たった一人でのスタート。「何か楽しいことできたらいいなあ…」といろいろ考えていました。
四月六日、始業式の日の学級開きは、自己紹介や願いなどを話した後、一学期の目標を決め、残りの時間に「種をまきますか?」とYさんに聞いてみると、目を輝かせて「はい、まきます!」と即答。用意しておいた土と種、セルトレーを出すと、あっという間に土を入れ、種まき開始。マリーゴールドの黄色とオレンジ、マイクロアスターの種がありましたが、「すべての種類をまきたい」とのことで三種類の種をまくことにしました。副担任の先生方も見守る中、Yさんは手際よく同じ数だけ種をまき、土をかけて水をあげました。
毎日こまめに水をあげていたおかげで、三~四日後には芽が出始め、十日たつ頃にはすっかり芽が出そろい、本葉も出始めました。
Yさんは苗の成長を楽しみにしながら毎日水やりを日課にしていました。(時々、授業時間に世話をやめられなくて、注意されることもありましたが、あわてて自分の席につくなど、休み時間と授業時間の切り替えには気をつけているようでした。)
五月中旬になるとマリーゴールドはつぼみをつけ始め、「いつ咲くか」が楽しみで毎日「明日あたりに咲きそう」などと予想しながら水やりなどの世話をしました。とうとう初めて花が咲き、とびきりの笑顔で喜びました。次々と花が咲き始め、マリーゴールドが咲きそろった六月中ごろ、教室から見える中庭の花壇に一緒に定植しました。自分たちで植えた花壇を見ながら「きれい」、「明るくなった」と満足顔。暖かくなるにつれ、さらに大きく、きれいに花が咲くことを願うこのごろです。
小学校から中学校に入ると、いろいろな面で違うことが多く、うまく適応できないこともあるようですが、ここの分校では同じ建物で学習し、先生方も顔見知りなので、子どもたちにとっては不安なく進学できているように感じます。各教科で担当が変わることや、定期テストなどにもスッと慣れ、勉強や掃除などでとてもよく頑張る姿を見せているYさん。課題もありますが、笑顔で元気よく挨拶でき、目標を持ちながら努力できることを大切にしていきたいと思っています。
Yさんの一学期の本館生活の目標は「苦手な教科を頑張る」です。今までの授業や行事などの様子を見ていると、一度は「ムリです」と言って取り組めない場面があっても、次の時にはやってみることができ、何度かやってみたらできた…ということが多いようです。このようなことの積み重ねが子どもたちの成長にとって大切なのだと思います。これからもいろいろな行事があり、勉強も難しくなってくると思いますが、小さな種からたくさんの葉をつけて花が咲くように、Yさんの中学校生活が、いろいろな分野で大きく成長し、花を咲かせていけることを願っています