ひとむれ
このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。
職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。
※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
巻頭言
半年間の寮内業務を振り返って
がんぼうホームより
<児童の声>
校長 清澤満
長い冬に耐えて活力を蓄えてきた木々が新緑の輝きを増し、草花が一気に芽吹く北海道の五月。いよいよ春が来たなぁと実感します。自然豊かなここ遠軽町留岡で暮らしていると、こうした季節の移り変わりを鳥たちのさえずりとともに五感に感じることができます。
そんな五月ですが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて二月末から断続的に続いていた分校の臨時休校がゴールデンウイークが明けても継続されることとなり、子ども達の日課の組み立てに頭を悩ませました。それでも、家庭学校の子ども達の生活スタイルを理解してくれている分校には、町内の学校とは異なる対応をしていただけました。具体的には一・二校時目を施設職員が担当して読書や体育の時間に充て、三・四校時目は分校の先生方が自習を観たり授業を行うという形で分担しました。週三日午後の学校日課に組み込まれている作業班学習については、残念ながら分校の参加が叶いませんでしたが、蔬菜班や酪農班などここでの生活に必要な作業ばかりですので、子ども達と施設職員で続けました。ほかにも美術やレクリエーションなどの日課を組んで、休校による子ども達のストレス軽減を図ってきたところです。
そして漸く六月からは通常の授業に戻ります。コロナ禍によって子ども達の教育を受ける権利が脅かされてきた状況からひとまず脱出です。何より本校が大切にしている作業班学習を、分校と一緒に取り組むいつもの形で行えることを大変嬉しく思います。
子ども達は各寮舎で暮らし、本館内の分校で授業を受け、敷地内で作業を行う生活をしています。町への外出など外との接触は殆どありませんが、朝夕の検温や手洗いの励行、敷地内でもマスク着用の徹底などにより感染リスクを極力抑えてきました。また、通勤職員は勿論のこと、敷地内に居住する職員(全体の七割)にも子ども達と同様の対策を徹底するほか、外出時には三密を避けるなどの責任ある行動を求めてきました。
こうした対策を講じながら、五月の行事は概ね予定どおりに実施することができました。ゴールデンウイーク中の恒例行事である校長杯(寮対抗のスポーツ大会)は初日にフットサルとミニバレーを、二日目にはソフトボールを行い、力を競いました。結果は各種目とも力を発揮した石上館が好成績を収めました。予想以上の活躍をして喜ぶ子や持っている力を十分発揮できずに悔しがる子など様々ですが、勝ち負けだけに拘るのではなくチームスポーツを通じて協力・協調することの大切さを学んだり、人の気持ちに共感できる力を身に付けて欲しいと願っています。私もオープン参加の職員チームでフットサルとミニバレーに出場しましたが、フットサルではボールを蹴ろうと思いっきり振り抜いた右足に左足まで付いてきて、身体が宙に浮き、肘と背中で着地するという珍プレーを披露する始末でした。無理はできないものです。
八日には花見の会を行いました。当日は本館前の桜が数輪しか開いておらず、殆どが淡い赤紫色の蕾の状態でしたが、花見をしている間にも次々と開花するのでは、と感じさせるほどの暖かい春の陽気に恵まれました。子ども達は毎年工夫を凝らした出し物を披露してくれ、今年も楽山寮の見事なバンド演奏などがみんなを楽しませてくれたのですが、感染症対策のため、お客様をお呼びできなかったことは非常に残念でした。
マラソンには不思議な力があるようです。春季・秋季のマラソン大会を頑張った子どもは、その後目に見えて変化し、大きく成長することがあるのです。自分の目標タイムと走った結果の対比がしやすく、結果が上回った者はそれを次の目標タイムに、下回った者は次はもう少し頑張ろうとなるのでしょう。また、完走できたことが大きな自信につながる子どももいます。二十日の春季マラソン大会を制した掬泉寮のS君はスポーツ万能の職員に勝利したものの、昨年秋の自身の記録を数秒下回ったことに悔しがりました。年下や年季の浅い子どもに負けて悔し涙を流す子どももいます。そうした一つひとつが子どもの頑張る気持ちを引き出し、自分を変え成長しようとするきっかけとなっているのかもしれません。
二十六日には全校作業でカラマツの苗木約千本の植林を行いました。掬泉寮の横から林道を奥に進み到着した植林場所は、平和山と五日山を遠くに望む境界線近くの斜面で、辺り一面に山林が広がり、いつも目にする光景とは全く違った別世界にいるようでした。礼拝堂や寮舎は山に隠れ森に埋もれて見ることはできません。私が頭で思い描いていたよりも遙かに広大な敷地の中に家庭学校が存在していることをそこに立ち知らされました。この日みんなで植林したカラマツが四、五十年先には大木となって、また私達の生活に活かされるのです。地元造林業者の方のご指導の下、子ども達には大変貴重な体験となりました。
月末には休校期間中の日課で取り組んできたバレーボールの成果を発揮する機会として、予定外でしたが寮対抗バレーボール大会を開催しました。担当者の発案で、試合結果だけではなく「意欲・関心」「態度」「配慮」などの評価点を加算して順位を決める方式としました。今回は評価点で順位が入れ替わることはありませんでしたが、チームプレーを意識した良いプレーに繋がったようです。
家庭学校の子ども達は、コロナ禍においても職員の手がある分、これまでの日常との差違はそれほど大きくなかったかもしれません。しかし、寮単位で行う外出行事や買い物訓練を我慢したり、何時になったら学校が始まるのかと心配が募り、ストレスはどんどん溜まっていきます。そうした中でこの三か月の生活に耐えて、本当によく頑張ってくれたと思います。職員も又社会的養護に携わる者としての責任と使命感を持って現場を護り続け、まずは五月を乗り切りました。
この間、皆様からは不足するマスクや消毒液、子ども達が喜ぶお菓子やスイーツなど心温まる品々をたくさん頂戴しました。心から感謝申し上げます。皆様からいただいたご厚意を毎朝体育館で行うラジオ体操の際に子ども達に伝えています。この誌面でこの子達からの感謝の気持ちを皆様にお伝えします。
まだまだ不明な点が多い感染症ですので油断はできません。本校が実践すべき新しい生活様式を感染防止対策として取り入れ、子ども達の安全・安心を第一に歩みを進めていきます。
児童生活指導員 西村 健太郎
この半年間、輪休(代替え寮長)業務も各寮数回ずつ経験させていただき、その際に求められる対処能力をはじめ自ら不足している点も含め、今後の課題として見えてきた部分は多くあります。
まず、反省点でありますが、約十名の児童が居る状況下のもと、全体の動向把握をしなければならないにも拘わらず、特異な行動や言動が見られる少数の児童に気を取られてしまい、後々、児童から「誰々君がこんなことをしていた」という報告を受け、その事実を知ったということがありました。やはり、ひとつの事にとらわれがちで視野が狭くなってしまうという自らの弱点が浮き彫りになってしまったと自覚しております。
また、合間を見て入所児童の児童票に目を通すことができ、どういった問題点があり、どのような経緯で当校に来たのかという事も知りました。児童票を一読しますとどうしても児童個々の特性に先入観を持ってしまい構えてしまいますが、そこを踏まえ、回復を目指す支援が重要となってくるのではないか?と漠然ですが感じとることが出来た期間でもありました。
各寮の日課等(ルール)は統一感があり基本的に相違ないと感じられました。しかしながら例えば厨房での食洗作業、寮内清掃、各種作業などは、三寮三様で細かい部分の違いについて、最初は戸惑うこともありましたが、それぞれの手法に応じ、代替え寮長役の際は、場所は違えども柏葉寮・洗心寮にて、準じながら調整したところ、習慣を重んじている児童は抵抗なく受け入れてくれ、多少なりともスムーズな流れが作れたという安堵感が得られました。
当初、自らの意識として薄かった部分でありましたが、児童との関わり合いの中で、話しかけられた際、日常会話であっても内容的にどの程度まで深入りしてよいのだろうか?等々、児童に対してこちらの回答は適切ではなかったか?と迷いが生じ、結果的に児童の受け止め方次第で児童の様子が急変してしまうのでは?と連想をしてしまいますと、焦燥感に苛まれることが幾度となくありました。過敏な児童はこちらの動揺をすぐに察知し、ここまでなら許される範囲であると線引きをして言動に移してしまうこともあり、日課におけるメリハリを曖昧にさせてしまう要因を誘発させるような悪循環を自ら招いてしまったのではないかと後悔しております。
また、にこやかに話しかけてくれる特定の児童とそうではない児童との接し方についても、「来るものは拒まず、去るものは追わず」的な割り切った考え方の関係性では、当然、児童間の相性を見定めることも出来ず、児童の健康状態をはじめ、リアルタイムでの情報把握には支障を来してしまい、全く指導に結びつかないのではないかと感じております。 全体を通して実感していることですが、著しく経験値が乏しいにも拘わらず、どうしても永きにわたる前職で凝り固まっている通念や感覚が常識であるのだと思い込み、それが障壁になってしまいがちです。その影響で無意識のうちに消極的になってしまっているが故、環境や業務に適応するのに時間がかかり過ぎであると感じております。当校では不測の事態で問われる能力を養うことも必要とされます。その答はひとつではなく柔軟な対応が求められる中、まずは毅然とした態度で児童と触れ合えることを目標に、反省から得た課題点を早めに克服出来るよう、ひたすら経験を積んでいくほか無いと考えております。
ホーム長 清水真人
がんぼうホームは2017年1月に開設し、今年度で4年目を迎え、この間入居者は12名、退居者は9名となっています。2019年度は、年度当初は在籍者5名からスタートしましたが、年度中に入居者3名、退居者5名で年度末の在籍者は3名となりました。(定員6名)
退居者については、ホーム創設以来、初めて遠軽高校定時制3年課程を修了し専門学校に進学した児童が1名出たことは大きな喜びでありました。しかしながら、多くの退去者は自立への不安を抱えながらの退居であり、自立援助ホームとしての支援の難しさを感じました。
ここで、過去3年間(2017年1月~2020年3月)の退居者9名について分析らしきものをしてみましたので述べさせていただきます。
1.入居時年齢、就学状況
当ホームでは義務教育終了後、20歳までの児童を対象に受け入れをしていますが、入居時年齢は15歳2名(22%)、16歳5名(56%)、17歳2名(22%)となっています。就学状況は高校在学又は中退者6名(67%)、中卒者3名(33%)で大方が高校通学経験者となっています。入居後に定時制入学6名(67%)、通信2名(22%)と90%に近い割合でしたが、卒業者は1名(11%)と就学継続の難しさが現われています。
2.入居経緯
家庭3名(33%)、施設6名(67%)(児童自立支援施設4名、児童養護施設2名)でした。
3.退居事由
退居に関しては、高校卒業進学1名(11%)、本人の意思自立5名(56%)、入居不適応3名(33%)となっています。
4.入居期間
入居期間は1年以下4名(44%)、2年以下2名(22%)、3年以下3名(33%)でした。特に入居不適応退居は全て1年以下の入居期間でした。
5.児童精神科通院
4名(44%)が発達障害等により、児童精神科に通院、投薬していました。
6.就労状況
入居中の就労については、継続4名(44%)、中途退職5名(56%)でした。
7.以上のことから思うこと
入居経緯からみて、家庭からの入居者は100%中途退職、施設からの入居者は33%が中途退職であり大きな差が見られました。これは、施設で過ごした経験が労働体力を向上させていると考えられます。また、家庭からの入居者の67%が児童精神科通院、施設からの入居者は33%でありましたので、発達障害等による就労継続の難しさも大きな要因でもありそうです。
退居事由については、家庭からの入居者は1名が本人意思自立、2名が入居不適応でした。施設からの入居者では1名が不適応、5名が進学及び本人意思自立であり、ここでも大きな差が見られます。ここで特に言いたいことは、入居者の大半は出口のビジョンなくして入居していることです。「行くところが無かった」「とにかく今と違うところに行きたかった」という思いから、とりあえずホームに入居したというものです。しっかりした具体的な出口がない児童はどうしても自立への道は険しいものになりホームでの生活が甲斐ないものになってしまいます。
15~17歳と人生経験も浅く、働いた経験もない児童に、将来ビジョンを持てということに無理があるのかもしれませんが、施設からの入居者は、施設での生活の中で、自分の進むべき道をしっかり考えることが出来る環境にあったのではないかと思います。
また、家庭からの入居者のなかには、身辺自立が出来ていない児童が見られます。就労による経済自立を目指すには、まず身辺自立が基本です。施設からの入居者については、必要な身辺自立を持っての入居となっています。
このように、施設経験の有無が当ホームからの自立の際に大きく影響しているのではないかと思われます。今後、さらに中卒で家庭からの入居、発達障害を持った児童の増加が予想されます。そのような、身辺自立がままならない、労働体力も未熟な児童を受け入れる場合,児童の将来を決める大切な時間を無駄にしないために、例えば、当ホームの母体で、中卒生受入の実績がある家庭学校での生活を予め短期間でも経験した上で当ホームに入居する等の支援ルートがあれば安定した自立に繋がる可能性が高まるのではないかと考えており、そうした必要性を感じています。
楽山寮 中二 R
僕は、花見の会で感じたこととか、楽しかったことなどが三つあります。
一つ目は出し物でやったバンドです。ここに来てからバンドは二回目で、どちらともベースをやりました。花見の会でやった曲はやさしいあの子という曲をやりました。最初は息があわなくて、バラバラでした。でも回数を重ねるごとに息があって本番二日前ぐらいには、みんな息があって、最後まで演奏することができました。本番ではみんな緊張してところどころミスをすることがありましたが、みんな楽しく演奏できたと思うし、聞いている人も楽しそうだったのでよかったです。またバンドをやる機会があったらいいなと思います。
二つ目は、外でごはんを食べたことです。みんなで桜を見たりしてごはんを食べたりここちよい風がふいたりとなかなかふだんの生活の中ではあまり感じることのできないものを外では感じることができるので、外でごはんを食べるということは、すごく印象的だなと思いました。
三つ目は花見の会の時間の過ぎ方です。僕はまだ終わるまで一時間位のこっているんじゃないかと思ったのですが、けっこう時間が過ぎていてすぐ終わってしまいました。いつもは時間がながく感じたりするけど楽しいことをしている時は時間が早く進んでいるのではないかと思うぐらいに早く感じます。でもけっこう時間がたった思うとなぜか体がつかれます。でも時間を忘れるくらい楽しんだということなのでよかったと思います。
こんかいの花見の会は桜があまり咲いていなかったけど出し物でもりあがることができたのでよかったと思います。これからいろいろな行事があるけど楽しんでいきたいと思います。