ひとむれ
このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。
職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。
※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
巻頭言
家庭学校職員の声1
家庭学校職員の声2
家庭学校職員の声3
家庭学校職員の声4
家庭学校職員の声5
校長 仁原正幹
北海道家庭学校は児童自立支援施設なので、子ども達が年間を通して不定期に入退所しています。児童養護施設などと比べると概して入所期間が短く、寮や分校のクラスでは出会いと別れの繰り返しです。
それでもやはり「春は別れの季節」です。この時期は中学卒業、高校入学、高校卒業等の人生の大きな節目と重なるので、そのタイミングに合わせて毎年まとまった数の児童が退所していきます。今年も多くの子どもが家庭学校を巣立っていきました。
まずは高校進学組です。受験した十四人全員が第一志望の学校に合格でき、皆で安堵し、喜び合いました。そのうち十一人が故郷の高校などに進学するために退所しました。残りの三人は高校生寮(向陽寮)に転寮して遠軽高校の定時制課程に進みます。日中の職場実習と夜の授業の両立は相当ハードルが高いと思われますが、三人の三年間の頑張りに期待しています。
次に高校卒業組です。紋別高等養護学校の卒業式で答辞を読んだ生徒がいます。凜々しく堂々とした立派な答辞でした。学業成績が優秀だった上に家庭学校で鍛えられた作業能力もベースにあったのでしょう。実習先の大型スーパーでの評価も高く、そこに一般就労の形で採用され、卒業式の日に元気に巣立っていきました。
遠軽高校定時制にも卒業生が二人いました。高校の先生や実習先の方々など多くの皆さんのお力添えをいただいて、もちろん本人達の努力もあって、何とか卒業まで漕ぎ着けることができました。年度中にそれぞれ十九歳、二十歳を迎えていたこともあり、数ヵ月前に退所して遠軽町内で一人暮らしを体験していました。卒業式の中で、お世話になった方々への感謝の気持ちを表す立派なスピーチをしてくれ、多くの参列者の感動を呼びました。私も胸が熱くなるとともに、誇らしく思いました。
その他の児童も含め、三月中に十五名の児童が退所していったので、一気に寂しくなりました。北海道家庭学校は全国的にも稀な年長児童の多い児童自立支援施設で、そのために三月ショックが強く表れます。教育サイドのルールでは、四月一日の児童数が分校の教職員配置の基準になっています。義務教育年齢の子どもの数が一気に減少して底を打つ四月一日の児童数で決められてしまうのです。児童自立支援施設内の分校については、三月一日の児童数を基準にしてほしいと、強く思っています。
さて、「春は出会いの季節」でもあります。新年度早々から新入生が次々とやって来るはずです。残った子ども達と施設職員、分校教員が新入生を囲んで、みんなで力を合わせて百年の佳き伝統を守っていこうと決意を新たにしています。
主 幹 楠哲雄
今年度の家庭学校の寮舎では寮や職員の入れ替えにより大幅に変更となります。一般寮3ヵ寮、高校生寮1ヵ寮の計4ヵ寮体制に変更はありませんが、石上館改築に伴い昨年の5月から柏葉寮に移転していた寮職員と子ども達が、新しくなった石上館に移っています。これで通常時稼働中の4寮全てが新しくなりました。
新寮舎になってから風呂は個室になり、普通の家同様のユニットバスが使われていますが、今回の石上館はそれに加え2~3人用の風呂も設置しています。これは職員が生徒と一緒に入り入浴指導することを考えての事です。もちろん風呂を焚くかまは従来通り薪用となっています。
以前の寮舍よりも居室が広く、天井が高いため寮全体が明るくなる等生活環境が改善され、寮舎間の格差がなくなりました。
楽山寮は本館職員として経験を積んだ千葉夫婦が担当。向陽寮は実習先の事業所や学校への送迎等があり、起床時間が違う等、子ども達の生活リズムが不規則なこともあり、柔軟に対応できるよう複数職員による交代制に変更することとなりました。
担当者や体制の変更により、一時的にご迷惑をおかけすることもあろうかと思いますが、宜しくお願いします。
主 幹 鬼頭庸介
4月1日から新年度を迎えるに当たり、組織・機構に一部改編がありました。昨年は自立支援部長の下に主幹がいて楠寮長が掬泉寮の運営をしながら本館業務、全体の寮運営、生徒指導、心理ケアなどの全てを取りまとめていました。今年度からは、負担の軽減や効率的な業務遂行を目的に自立支援部長の下にもう一つの主幹を置き、ここで本館業務と作業指導の分野の取りまとめを行うことになりました。
組織的に説明すると、寮長・寮母の寮担当部門と、本館職員、心理士、中卒クラスの講師の部門が分かれて二つの系統になり、寮担当職員が寮運営や生徒指導に一層専念しやすい形になっています。組織・機構図を俯瞰して見ると、昨年度よりも職階制が明瞭になり、ピラミッド型になっています。
家庭学校では、6年前から公的な学校教育が入っており、望の岡分校という名称で教職員が教科学習に来てくださっています。家庭学校の理念を理解していただき、午後からの作業班学習や全体レクリエーション、各種行事にも積極的に参加し、関わってくださっていますので、施設側と分校側との連絡調整を密にして、よりよい協力関係を築いていくことが本館業務の中での大切な仕事だと考えています。
また、企画総務部と自立支援部はこれまで独立した存在で、交わる部分は少なかったのですが、家庭学校が隆盛期であり、影響力のあった時代を知っておられる軽部先生が企画総務部長として復帰されていますので、山林部・酪農部・校内管理部・蔬菜部・園芸部の各種作業についての助言をいただいたり、作業班学習の推進と管理をしていただくという形をとることになり、もう一つのラインが繋がりました。
4月から「フリー職員」という呼称を廃して「本館職員」という呼称になった私たちの業務についてですが、これまでどおり、各寮の輪休に対応する他に以下の業務が加わったり、改められたりしています。
一つ目は、高校生寮である向陽寮が暫定的ではあるものの交代制になったことによって、そこに常時本館職員が入ります。核となる職員はこれまでどおりですが、午後5時以降翌朝まで交代で入ることになります。
二つ目は、中卒クラスの総括としての役割です。担任はこれまでどおり非常勤講師の先生にお願いすることに変わりないのですが、時間割の作成や運営管理全般については私の方で担うことになりました。
三つ目は、これまで主に寮担当職員(寮長)が担ってきた五つの作業班の班長を全て本館職員が担うこととし、寮担当職員は副班長にまわったということです。これも先に書いた寮担当職員の業務軽減や効率化と、若手職員の育成強化を目的としたものです。これに伴い、本館職員は、作業班学習の内容を計画的に実行に移すことが一層求められることになりました。
児童自立支援専門員 千葉正義
この春から、楽山寮を担当させていただくことになりました。
私は家庭学校に来て八年目を迎えます。寮を担当してみたいという気持ちはずっとあったのですが、長らく独身であったため、夫婦小舎制の家庭学校において寮舎を担当することは出来ないだろうと考えており、今までフリー職員という立場で様々なことに携わらせていただきました。約二年前に、家庭学校に来た妻と出会い、今年の二月に入籍をいたしました。ここ家庭学校で人生の最良のパートナーと出会えたことを大変嬉しく思っています。
今まで寮を担当していない職員として何が出来るかを考えた時、まずは子どもの様子を知る事でした。例えばある寮舎の留守を預かる時、寮の雰囲気やそこで生活している子どもの近況を寮長に事細かに聞く、本館等での様子を積極的に見る、そうすることにより普段と同じような、子どもに負担をかけない生活をさせることが出来ます。なるべく同様な生活を、なるべく寮長と同じ指導を、そのことを考えながら子どもとの関わりを続けて来ました。
しかし、現実は上手くはいかないものです。普段は優等生の子が自分の前では全く指導にのらなかったり、寮長と同じことを言っているのに聞き入れてもらえなかったりと、自分一人では対応が難しく他の職員に対応をお願いしたこともありました。自分の力の無さ、そしてやはり寮長とは特別な存在なのだということを改めて気付かされたことが何度もあります。
このようなこともあり、楽山寮担当のお話をいただい た時手放しで喜べるような状況では無く、正直、不安と緊張でいっぱいの毎日です。
しかし、今までとは状況が変わります。寮を担当するということは子どもと一緒に過ごす時間が格段に増えます。また、今までの寮職員の休暇時の対応は、食事作りの時に来てくれる女性職員がいる時間を除いて、ほぼ一人でしておりましたが、今度は寮母(妻)がおります。家庭学校が長らく夫婦小舎制という形態を取っているということを考えた時、やはり夫婦で一つの寮舎を担当するということが大きな意味があるように思えてなりません。
私たち夫婦には子どもたちを変える何か特別な力があるわけではありません。ただ、子どもたちと共に家庭的な雰囲気で生活を送る中、喜びや悲しみ、悩みを共有することで、少しでも子どもたちの成長の手助けになれば良いと考えております。夫婦としても寮長としてもまだまだ新米で、今後も色々な部分でご迷惑をおかけすることとは思いますが、ご指導のほどよろしくお願いいたします。
児童生活支援員 千葉珠季
今年度から夫婦で楽山寮を担当させていただくことになりました。本館職員として働いていた生活とは変わり、新しい生活のスタートとなります。正直なところ、これからの生活がどのように始まり、進んでいくのか全く予想がつきません。私達は2月に夫婦になったばかりで、寮運営と同時に夫婦としての生活も始まります。もちろん夫婦小舎制で働くのは初めてなので、手探りの中でしばらくは生活することになるだろうと思っています。
私はこれまで本館職員として、幅広く様々な事に携わらせていただきました。本館業務や給食棟の調理業務、輪休寮の炊事、様々な行事への参加など、たくさんの家庭学校の職員、望の岡分校の教員、生徒達から学びをいただきました。4月からはその学びを活かし、新たに次のステップに進む、といった気持ちです。
これまでも生徒達と関わる機会はありましたが、生徒の一日の一コマにいる立場でしたので、あまり長い時間生徒達と過ごした事はありません。昨年度の冬残留の際、全14日のうち私は7日間が勤務でした。なかなか落ち着かない状態だったため、当番の職員全員がほぼ起床時から就寝時まで生徒達と過ごしていました。バタバタとした日々ではあった中、長い時間を一緒に過ごすことで生徒達の色んな顔を見ることができ、また生徒達も職員の色んな顔を見ながら、そうやってお互いの事を知っていく中で少しずつ関係がつくられていくのだろうと感じた事を覚えています。『一緒に暮らす』ということの大きさを強く感じました。
これからは今まで見られなかった寮生活での生徒達の顔に出会うことができるのかなと楽しみな半面、一から始まる生活に不安も多いです。先輩職員の方々に教わりながら、少しずつ寮生活に慣れていけたらいいなと思っています。そして、戸惑うのは私達以上に寮担当が替わってしまう生徒達だと思います。どのような雰囲気の中、初日を迎えられるかもまだ分かりませんが、一緒に暮らす毎日が始まり、お互いにどんな人なのかを知って、少しずつ関係性をつくっていけたらと思っています。
家庭学校に来てまもない頃、寮担当を経験されたことのある方からこんな言葉を聞きました。「この仕事は大変な仕事です。苦労が9割、喜びは1割。だけどこの1割の喜びが9割の苦労以上のものだから、また明日から頑張ろうと思えるのです。」似たようなお話を、別の寮担当を経験された方々からも耳にした事があります。その言葉が本当に心に染みて、今でも時々、この言葉が頭に浮かびます。
数々のご縁があり、今自分はここで働いています。その感謝の思いはいつまでも忘れてはいけないと思っています。まだまだ未熟な2人ではありますが、いつかその『1割』に出会えることを信じ、これからも生徒達との暮らしを大切にしていきたいと思っています。今後ともよろしくお願い致します。
栄養士補 西本祥之
私が北海道家庭学校に採用されたのは平成27年3月9日です。現在は主に給食棟での調理業務や向陽寮その他の輪休時の食事作りを担当しています。
こちらに来る前は、札幌市内の刃物店や沖縄県の病院に勤めていました。児童デイやショートステイで障がいを持った児童の療育をした経験もあります。
福祉系の大学を卒業した後、栄養士の資格を取るために短大に入ったため、社会に出たのは24才の時でした。その後は、栄養士や福祉の仕事を転々として、現在は28才です。そろそろ一生続けられる仕事を、と思っていた時に声が掛かり、遠軽町に来ることになりました。北海道家庭学校創立百周年記念式典の月に一ヶ月間だけお手伝いをさせていただいたことがあって、そのことが縁で採用が決まったのだと思います。
当時は礼拝堂周辺の清掃や寮輪休時の食事作り、博物館の展示のお手伝いなどを担当しました。同時に生徒さんと一緒にとうもろこしの収穫や牧草をトラックに積み込む作業を経験させていただきました。暑さが厳しく蚊も多い中、皆さん慣れた様子で黙々と作業しているのが印象的で、とても頼もしく見えました。
北海道家庭学校の四季はまだ夏と冬のほんのひとときしか経験していませんが、その壮大さと厳しさには日々驚かされています。花がいっぱいの花壇や澄んだ星空が個人的に気に入っています。
また、施設の敷地で採れる新鮮な牛乳をはじめ人参やきゅうり、じゃがいもやとうもろこし、セロリや三つ葉はどれも美味しく、それが農業や酪農に興味を持つきっかけにもなりました。食育という言葉をよく聞くようになったのは最近のことと思いますが、家庭学校ではそれよりもずっと前から食育に取り組んで来たのだと思います。私も栄養士さんと一緒に家庭学校で採れたものを生かした食育に関わっていければと考えています。
私の日々の業務は寮や給食棟での調理が中心なので、生徒さんや先生方に関わる時間がどうしても限られてしまいます。また、男性が寮や給食棟の厨房に入ることがあまりなかったということから、生徒さんによっては戸惑いを感じることもあるかもしれません。初めのうちはそんな不安も持っていましたが、給食の配膳時や輪休寮の食事作りの時に多くの生徒さんから関わりを持とうという姿勢が見られ、すぐに家庭学校の雰囲気に溶け込むことができた様に思います。
現在の私の業務内容は男性本館職員でもなく女性本館職員でもなく、少し変わった立場にあるのではないかと感じていますが、生徒さんや先生方との距離感を上手く利用して素直な感情を引き出し、それより良い方向に向けられる様な立場になれればいいと思っています。