ひとむれ
このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。
職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。
※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
巻頭言
掬泉寮
新入生を迎える日
最近思う事
振り返り
時間
校長 仁原正幹
新年明けましておめでとうございます。北海道家庭学校は創立百一年目を迎え、今日から新しい世紀が始まりました。百年間の歴史と伝統を踏まえながら、現代社会の要請にも十分に対応できる新時代の児童自立支援施設を目指して、新しい取り組みも着実に進めていきたいと考えています。
新年第一号ということで、お年始代わりに詩を一篇ご紹介させていただきます。
私は二十三年ほど前の冬、北緯六十一度にある極寒の地を旅したことがあります。スウェーデンのレクサンドという田舎町で、姉妹都市の当別町からの紹介を頼りに厚かましくも独りで押しかけたのでした。
その時たまたま現地の人に紹介されて在留邦人のお宅を訪ねました。川上邦夫さんという研究者で、奥さん手製のカレーライスをご馳走になりながら、久々に日本語で思う存分語り合い、気持ちが通じ合えた喜びを今でも鮮明に覚えています。
それ以来親交が続き、川上さんが帰国して東京に戻ってからも時折著書を贈っていただいていたのですが、彼の著書の一つでスウェーデンの中学校の社会科教科書を丸ごと日本語訳したものの中に、まさに我が意を得たりと思える素晴らしい詩が掲載されていました。かつて皇太子殿下が絶賛されたエピソードもあるようなので、ご存じの方もおられるかもしれません。他の翻訳者による別の詩集も出ていますが、川上さんの翻訳の表現が大変素晴らしいので、ご鑑賞いただければ幸いです。
北海道家庭学校は今年も子どもとその家族の幸せのために全力で自立支援業務に取り組んでまいります。引き続き皆様のご支援とご協力をお願い申し上げます。
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子ども
ドロシー・ロー・ノルト 作
川上 邦夫 訳
批判ばかりされた子どもは
非難することをおぼえる
殴られて大きくなった子どもは
力にたよることをおぼえる
笑いものにされた子どもは
ものを言わずにいることをおぼえる
皮肉にさらされた子どもは
鈍い良心のもちぬしとなる
しかし、激励を受けた子どもは
自信をおぼえる
寛容にであった子どもは
忍耐をおぼえる
賞賛をうけた子どもは
評価することをおぼえる
フェアプレーを経験した子どもは
公正をおぼえる
友情を知る子どもは
親切をおぼえる
安心を経験した子どもは
信頼をおぼえる
可愛がられ抱きしめられた子どもは
世界中の愛情を感じとることをおぼえる
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楠 美和
今年度も、いろんなことがあり、ご迷惑をおかけし、指導、支援して頂き、子どもたちは心も身体も成長しています。
貴重な機会なので、寮でのささやかなうれしい出来事を紹介したいと思います。
春、寮の大半を占めていた3年生が卒業し、少人数での不安なスタートとなりましたが、新3年生が中心となり、作業や畑仕事だけでなく、園芸部の繊細な手伝いまで任せることができるように成長していました。
夏、洗面所の花瓶に一輪の花が飾ってありました。ダリアのピンクの花です。どういう経緯で誰が持って来てくれたのかわかりませんが、大人になってもそんな心を持ち続けてほしいです。
秋、何度も山でコクワや山ブドウを収穫しました。山ブドウは手が紫になりながら、丁寧に処理してくれ、ブドウジュースにしました。「うまっ!」そんな声が上がりました。
冬、牛の搾乳体験をさせてもらいました。酪農部の生徒にとっても初めての体験です。近くで牛を見ることも触ることも未経験でしたが、恐る恐る自分が搾ったジャージー牛のミルクの味はほんのり温かく甘かったようです。
これから、冬の帰宅訓練、スキー学習、雪像づくり、高校受験、卒業と大切な行事が控えています。ひとりひとりと丁寧に向き合って見守っていけたらと思っています。
髙橋 浩美
寮母の仕事の中で新入生を迎え入れる日は時間も手間もかかる仕事が多い。
数日前に部屋を決め、布団の準備等から始まる。身長体重からある程度サイズを予測して制服やその他の物品等、準備できる物も多々あるが当日本人と対面するまでは何とも言えない。入校してくる子により持ち物にバラ付きがあり、大量に洋服や身の回りの物を持参する子と全く逆の場合もあるので当日臨機応変に対処しなくてはならない。持ち物には必ず名前を記入し下着や靴下にも書き入れる。この作業は新入生の今迄の生活ぶりをほんの少しでも想像し理解出来る事に繋がる作業の1つでもあるように思う。
制服ズボンと作業ズボンは試着をさせ、裾上げをしなければ次の日の登校・作業に間に合わない。しかし夕食の準備や他の生徒の用事にも対応したりするので結局新入生のズボンの裾上げは夜の作業となる事が多い。夜の縫い物は少々辛いが最後にアイロンで押さえ本人の体型に合ったズボンを渡せるときはホッとする。
タオル類等は本来なら1度洗濯をし、のりを落としてあげたい所ではあるが、札の付いた新品の方が受け取り手は気持ちが良いだろうと考えそのようにしている。
渡したはずの物が紛失したり貰っていないと申し出る生徒が多いため、記憶するには限界があることから生徒別に品名・数量を記入していつでも色々な事に対応できる様、記録するノートを作る事は大切だし、そのノートで大変助かっている。
新入生を迎え名前を書き入れたり、物品を渡し衣類を揃えてあげたりする事は、新入生と寮母のコミュニケーション第1歩であると思うし、そこから始まる。
水原 詩乃
北海道家庭学校に着任して、3度目の冬を迎えています。今年は全国的にあまり残暑がなかった様子ですが、此処も去年よりも寒くなるのが早かったように思います。でも雪は少ない感じで、行事予定ではスキー学習の話が出たり、間もなく近くのロックバレースキー場がオープンする旨のチラシが貼られていたりするのに、まだまとまった降りにはなっておらず、あちこち地面が黒く見えている状態です。これからドカッと来るのでしょうか。
先日見かけたテレビ放送で、平成の米の研ぎ方なるものをやっていました。最近は、精米技術の向上で、米に余分な糖があまりついていないので、ゴシゴシトそれこそ「研ぐ」様にやってしまうと、ぼろぼろになってしまって、美味しくないのだそうです。「昭和の常識は平成の非常識」。今ここに居る生徒達の親御さんや、そのうち職員も平成生まれ、平成の教育を受けた人たちが増えてくるのでしょう。「昔はこうだった」と言っているばかりでは何も進歩しません。「昔はこうだったけれど、今はこうなったから良かったね。」という社会であってほしいと思います。
生徒達には、生まれてきてよかったと思える社会であってほしいと思います。ようやく、人間が、人間に対して行ってきた様々な行為が、虐待であり、してはいけないことであると一般的に認識される時代となってきました。
これからも、児童自立支援施設の職員として、1人でも多くの少年達が、自信を持って生きていくことが出来る様に関わっていけたらと思います。
百一年目、伝統を守りつつ、時代に乗り遅れないように、変革していけたらと思います。
岸田 珠季
今年一年は、正直なところ自分の中では低迷する毎日でした。その時は自分しか見えておらずにたくさんの人に迷惑をかけ、支えられた年でもありました。
私が家庭学校へ初めて訪れたのは一昨年の十一月でした。前職を辞めた後に縁あって舞い込んだありがたいお話に、興味と不安の中ここへ来ました。
ここで出会った子ども達は、突然現れた私に対し、「おはようございます」、「こんにちは」と元気に挨拶をしてくれました。何か荷物運んでいるのを見かけると、駆け寄って「持ちます」と一緒に運んでくれました。御飯を作ると「いただきます」、「美味しかったです」と当たり前のように声をかけてくれました。児童自立支援施設とはこういうところなのだと、強い先入観からここでの生活をスタートさせていたのだと感じています。
気持ちばかりが先走り、やりがいや役割ばかり求めていた1年目。2年目の今年は自分のポジションでやるべきことをしようという思いがありましたが、「こうあるべき」とか「こうすべき」という形ばかりに捉われた生活を送り、自分が何を思っているのか、どうしたいのかが分からなくなりました。考えることも怠り、ただ淡々と過ごしている毎日が空しくも感じました。これではいけないと思いながらも受け身な生活を送ってしまいました。
坂本 愛美
午前6時起床。高校生はアルバイトがあるので平日は1年中6時起床です。なので土曜日もアルバイトがあれば、ゆっくりと寝ていられるのは日曜日だけなのです。毎朝眠そうな顔をしながら炊事場にいる私に「おはようございます」と声をかけ、朝食が始まる6時半までの少しの間、自室で自由に過ごします。ほとんど寝ているのでしょう。
朝食が終わりアルバイトの生徒のお弁当を作っていると食器を片づけに来てチラッと今日のおかずをチェックしていきます。野菜、魚が嫌いで毎回食べやすいようにと考えながら作っています。7時20分、アルバイト先へ寮長が送ります。
朝、顔を合わすのは約1時間程度です。
アルバイトが終わり直接学校へ行きます。授業を受け帰寮時刻は、9時と10時に分かれています。まずすることはお弁当箱を洗うこと。その後、一日の疲れをお風呂でゆっくりとる。そうするとすぐに就寝時間の11時です。
帰寮から就寝までのわずかな時間で生徒と寮母とでお互いの一日の出来事を話したりします。「今日、初めて何々の作業をしました」、「今日、学校で3杯もおかわりしました」など、普通の会話ではありますが、そういう時間を大切にしています。
学校が終わって1、2時間、朝と合わせても1日のうち2、3時間しか関わることができていません。朝から働いて学校で授業を受け、帰ってくるころには疲れ果てているはずですが、「おかえり」と声をかけると、笑顔で「帰ってきました」と返してくれます。
学校や寮で問題を起こすこともありますが、生徒は一生懸命頑張って日々生活しています。午後11時、「電気消します」の声を共に、生徒にとって長い1日が終わり、私にとって大切な1日が終わるのでした。