このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。
 職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。
※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。


2011年02月号

暗渠精神

校長 加藤正男

 マイナス20度を超える日が続いています。青い空が真っ白な世界に透き通るようです。白い雪が太陽を浴びて反射しピンク色に染まり、温かく、眩しく感じられます。

 本館学習棟の廊下の窓には雪の結晶ができています。

 遠軽は1月中旬までは、例年より少なめではありましたが給食棟の屋根に雪のせっぴができ、凍りついて屋根から落ちません。  スキー学習がスタートとす る1月18日には前日から20センチぐらい降りました。

 1月13日から三学期がスタートしました。冬に一時帰省していた生徒たちも全員戻り、家庭学校の生活がはじまりました。

 帰省中の生活について、保護者からのアンケートでは、「家の手伝いを積極的にするようになった」「がまん強くなった」「家庭学校の生活で成長していることを実感した」「帰省中のルールを守っている生活だった」などプラスの評価を受けています。

 帰省にゆく前日には、ひとむれ会と呼ばれる生徒集会で一人ひとりの目標を発表しました。「帰省中に進路のことをしっかり話す」、「家の手伝いをする」、「受験に向けて勉強する」などなど一人ひとりが全員の前で発表しました。

 就職先について保護者とトラブルになり、予定より、一日早く戻ったT君もいましたが、戻ってこないという生徒は一人もいませんでした。現実の親の生活を見て、ここを出ても帰るところは、施設での生活をせざるを得ないとつぶやいている生徒もいました。

 1月7日は帰省の日です。札幌児相に集合し、バスを出発しようとしましたが、室蘭児相の生徒たちが列車の遅れで合流が、予定より大幅に遅れてしまいました。ときおり吹雪いているなか、バスの出発するまで、生徒たちを見送る姿には、さらに成長していってほしいとの願いが感じられました。

 1月の17日からはスキー学習が開始しました。

 その前に神社山のスキー場つくりに生徒と職員分校の先生方と汗をかきながらスキー靴で雪を固めます。その次の日はスキーの板をつけて踏み固めていきます。17日から一週間は特別にスキー体育授業です。全くスキーは、初めての生徒から3年続けて受ける生徒もいます。基礎から丁寧に教わるので、ほとんどの生徒が遠軽町にあるロツクバレースキー場でスキー検定のそれぞれの級に合格します。

 2月5日は留岡幸助先生本命日の平和山登山を生徒や職員ともどものぼり礼拝を行います。そして生徒たちは平和山頂上からグランドへ降りていく滑降競技があります。その後回転競技、大回転競技、距離等大会が目白押しです。この体育授業は冬の体育訓練としては、大切なそしてスキーの楽しさを体験する貴重な時間です。

 1月に、留岡幸助先生の地元岡山きびケーブルTVにおいて、「高梁・新見が生んだ社会福祉家・留岡幸助、山室軍平」の特集が組まれました。そのDVDが送られてきました。

 当校は、留岡幸助の写真や家庭学校の風景、北海道家庭学校の写真等を提供しました。最後のシーンには多摩霊園で幸助先生の墓に刻まれている句「下積みの米や虫食い鼠食い」の映像がありました。

 この句は幸助先生が、山室軍平氏が病気で療養中の見舞いの手紙のなかに送った言葉です。

 「・・お互いの如き仕事をなすものは言わば縁の下の力持ちなり。動もするとつかれやすき傾きあり、これを下積みと申せばよろしかるべきか・・・」

 それに対して山室軍平氏は

「留岡先生が身体を痛められ、箱根にて療養していた時、私も少しばかり無理をして目を痛めたのである。新聞にそんなことが出たためでありましょうか、留岡先生はそれを知って箱根から手紙をよこしてくれたのです。しかもその手紙の終わりに一句「下積みの米や虫食い鼠食い」というのが書いてありました。社会のどん底に悩む人々の友となって尽くそうとするお互いは、自然そのために、健康をも痛めるであろう。寿命をも縮めるであろう。それを覚悟の上でやらなければならないという意味でその句を書いてこられたのであろうと思い、私は何遍か泣いたのである」(留岡幸助君古稀記念集より)

 昭和7年脳溢血で体調を壊した幸助先生に代わって昭和8年牧野虎二先生が校長となり、その後、幸助先生は昭和9年に、70歳で亡くなりました。校長は昭和14年から今井新太郎先生へと引き継がれました。

 昭和4年8月から昭和9年まで、四男留岡清男先生(当時31歳)は、法政大学文学部の教職を棄てて、単身北海道の家庭学校に教頭として赴任し、少年たちの教育にあたるとともに、そのかたわら、小作農場の経営管理や、下社名渕産業組合の運営に関与するようになりました。「・・・この5カ年に二つの事柄を学んだ。それは、大学や研究室では到底学びとることのできないもので、汗と膏のにじみ出る現場でこそ、学びとることのできるものであった。一つは、不良少年の正体は何であるかということ、他の一つは、貧農というものはどういうものであるかということである。

 私は、教誨師の子として、巣鴨監獄の官舎で生まれた。やがて、巣鴨に家庭学校が創設されるに及んで感化院のなかで育った。竹馬の友は、みな、札付きの不良少年たちである。しかし、感化院の先生として、北海道の農場に赴任してみると、一口に不良少年と言うけれども、不良性ということはどういうことであるか、皆目分からなかったのである。・・」

 戦後経済が破産し北海道家庭学校は、苦境に立たされました。若いころ教頭を5年間勤めた四男清男先生が請われて校長となりました。

戦時中の作付転換のため、乳牛は一頭しか残っていません。

 建物もまた、傷み放題にいたんでいました。寝具は東京へ行って調達しました。「教育は胃袋から」というスローガンのもと生産設備を整備していきました。

 さまざまな試みを行いました。企業からの寄付を仰ぎに二男幸男氏と東京の企業を回りました。東京に自動車の部品工場を立ち上げました。沖縄の米軍が残したスクラップの寄付を受けました。外部へ資金を求めていくだけでは限界があり、内側に向かって教育農場のもつ資源をとことんまで開発するように職員全体で努めること求めていきました。精米・製粉工場、山林経営、養鶏、酪農、蔬菜等生産の力をあげ、生活環境をよくしていきました。

 清男先生は、昭和35年ころ研修生としてこられた堀江という若き研修生に対して、この学校に来ての感想を聞いています。「自然の景色が素晴らしい、また、先生も生徒も、実によく働きます」との答えに対して、そういうものは目に見えるもの、手に触れて知ることのできるものであります。目に見えず、手にとって触れることのできない精神的な支柱は何かと問いかけています。

 重粘土地帯の田畑耕地を掘って暗渠を埋め、そこに暗渠工事を施しています。それによって水はけがよくなり、飼料畑の単位収量が飛躍的に増加したのです。・・・暗渠は地の底に隠れて埋められています。表面から、目で見ることはできません。しかし、地の底に隠れている暗渠があるために、地上にまかれた種子が、腐ることなく、芽を吹き出し、花を咲かせ、実を実らせることができるのです。それが暗渠というものの効用であり、誇りだと思うのであります。私たちは、日々、暗渠となって耐え忍ぶと同時に、黙々として人さまに仕えて喜ぶことができるような、そういった人間になりたいと思うのであります。(教育農場五十年 留岡清男著から)

 大地の詩 留岡幸助物語は、1月28日には完成試写会が、山田火砂子監督を迎えて家庭学校体育館で行われました。次の日、遠軽町の福祉センターで映画の制作協力券を購入していただいた方々への試写会が行われました。2月からは各地で封切りになっていく予定です。

 感化事業の先駆者として生き抜いた留岡幸助先生に光が当てられ、多くの人に、その足跡を知ってもらいたいのです。

2011年02月号

「施設内における性問題行動および性的問題を理由に入所してきた児童に関するケアについて~北海道家庭学校からの提案」

荒木 陽平

【構成】

1 家庭学校における性問題行動を有する児童への対応の現状について

2 北海道家庭学校からの提案

 ①道内児童福祉施設における性問題行動の現状把握作業の実施。

 ②性的問題行動のパターン分類を行い、対応についてのワーキンググループづくりの実施

 ③性治療教育に関する社会資源整備の促進

1 家庭学校における性問題行動を有する児童への対応の現状について

 近年、性的問題行動および性的問題を理由に入所する生徒は全国的に見ても増加の傾向にあると考えます。

 私達、北海道家庭学校も、これらの流れを受けつつ、施設全体として『施設内における児童の性的な問題行動』に取り組む必要性を感じ、2年前からいくつかの取り組みを試みてきました。

 開始当時、具体的なノウハウを何一つ持たない私たちは、全くの手探りの中で何をしたら良いか分からず途方に暮れていました。

 とにかく、今自分たちにできることは何か考えた上で、出来ることを一つ一つやっていこうということになりました。

 具体的には、大阪の修徳学院の心理担当の先生(当時)にスーパーヴァイズをいただきながら、外部から性問題に関心の高い臨床心理士に入っていただき、当時、これらの問題について緊急を要する児童に対し、それぞれの治療プログラムを実施しました(09年5月〜10年3月まで,1年かけて実施)。

 また、校内の全生徒を対象に、性問題への「予防教育」として、「性暴力」に焦点をあてた勉強会を警察・保健所・CAPのお力をお借りしながら実施しました。

 そして、開始2年目となる2010年度については、さらに一歩進める形で,性問題に関する治療教育を希望して入所する児童に対して、児童相談所と連携の元、保護者の同意書の取り付け、アセスメントや中間のカンファレンスまで協働して実施することが可能になりました(現在も進行中)。

 さらに、施設内の性的問題行動に焦点を当てた性暴力の「予防」を目的とした個別の保健教育を、家庭学校の担当者と分校養護教諭の協力の下、入校してきた全ての新入生に対して(入校後1ヶ月の生活期間をおきながら)、実施しています。

 個別の保健教育は、1人あたり約50~80分程度かけて行います。

 2009年度には18名、2010年度には19名の新入校生に実施しました。

 一人一人個別に実施していくので一定の労力はかかりますが、生徒の「性」や「暴力」に対する意識を知ることが出来、実施者としては非常に沢山の事を学ばされます。

 私達は,様々な生徒との対応を通じながら、施設内における児童間の性問題行動の「予防」と、特に問題性を有する児童へは個別の「治療」が必要であるという視点から、今現在も何とか取り組みを継続しております。

 ただし、取り組みを実施すればするほど、解決していかなければならない問題の多さに驚かされる次第です。

 幸い私達は、理解のある臨床心理士と協働してプログラムを進行することができていますが、その人材の確保だけでも実は困難を極めます。

 事実、全国の児童自立支援施設の研修会や,他の児童福祉施設との合同勉強会に出席してみると、上記のような「性問題」の具体的な対処の仕方が分からずに、対応に困っている施設が非常に多いのです。適切な対応やノウハウがなかったが故に、それらの問題のしわ寄せが児童に寄せられたケースも少なくありませんでした。

 様々な報告からも分かるように、施設内における性問題や性問題を主訴として入所してくる児童のケアは、従来から、緊急性を要する課題であることが叫ばれていたにもかかわらず、施設全体として性問題への取り組みがなされていたり、適切な治療教育のノウハウを有している児童福祉施設は本当に一握りであることが分かります。家庭学校も未だに手探りの段階が続いています。

 また、多くの児童自立支援施設が、公立であるにもかかわらず、治療教育を支えるだけの社会資源を開拓することが難しく、「公」の機関として、施設内における性問題や、性的問題行動を有して入所してくる児童に対して、適切な体系的なアプローチをとれずにいるのが現状ではないでしょうか。

 もちろん、北海道における公立施設や他の児童福祉施設も例外ではないと思っています。意識の高い個々の施設は、それぞれ個別の勉強会を開催したりしながら努力を続けていると思っています。

 しかし、いずれも孤軍奮闘している感が強く、いざとなった時に活用出来る道内の社会資源が非常に少ないという現状につながっているように思えます。

2 北海道家庭学校からの提案

 上記の点を踏まえて、家庭学校から道内・もしくは全国の関係機関に対して、これらの問題について有効な解決策がないものかお聞きしたいです。

 繰り返しますように、児童福祉施設内における性的問題行動へのアプローチ手段の構築は(「予防」「治療」を含めて)、全ての児童福祉施設における緊急を要する課題であり、その対応策や人材確保や医療機関の開拓等の社会資源の構築も含めて、民間、行政ともに全力で取り組まなければいけない課題だと思っています。

 以下の提案は、荒木がここ数年の取り組みの中で、「ぜひこのような取り組みを道内の他機関と実施出来れば」と思っていたものです。

 道内の関連機関はもとより、他府県でこれらの問題に対して有効な手立てをお持ちの施設は是非ともお話をお聞かせ戴ければ幸いです。

① 道内児童福祉施設における性問題行動の現状把握作業の実施。

 性的問題行動の内容を大まかに定義した上で、①異性間、同性間の性的問題発生率、②加害児の年齢別発生率、③被害児の年齢別発生率、④発生場所、⑤発生時間帯等に関する調査を、児童福祉施設に継続して実施することで、道内の児童福祉施設における性的問題行動の現状がクリアになる気がします。

 他府県の例でいえば、過去4年ほど間に、約8割の施設で性的問題が発生しているというデータもあります。潜在化しているものも考慮すると、道内の施設でも性的問題が今なお起こっている危険性は十分に高いことが予想されます。

 継続的な現状把握により集められるデータは、新たな対応策の論拠となり,対応へのアプローチの足がかりになると考えます。

② 性的問題行動のパターン分類を行い、対応についてのワーキンググループづくりの実施。

 例えば、施設内で「性」問題が起こったとしても、それが①児童と職員に関するものなのか、②児童と児童に関するものなのか、③個別の児童に関する特質的な問題なのか等、問題の特質によってアプローチの仕方が全く異なってくると思います。

 現状では、「性」に関する問題というだけで,施設が過剰に反応してしまい,適切な対処が出来ていない例も多々あるように思えます。おおざっぱであっても,おおまかな分類を行った上で、その問題への対策に有効なアプローチは何かという視点で、それぞれの問題毎にノウハウを蓄積していくことが、有効なことと考えます。

 今、目の前で起こっている問題が、既知の問題の範囲内であることが分かれば、支援者側の安心感にもつながりますし、問題の対象が明確になることで、他機関への応援を頼みやすくなるというメリットが生まれるのではないのでしょうか。

 文末の資料は、家庭学校における入所児童の性的問題行動におけるおおよその分類です。問題の特質に応じたアプローチが重要だと考えます(※ウェブページ用のひとむれには、巻末の掲載資料は掲載されていません。ご了承下さい)。

③  性治療教育に関する社会資源整備の促進。

 家庭学校には、性的問題行動を有する生徒が複数入所しています。これらの問題を有する生徒への、本校でのアプローチは認知行動療法をベースとしたカウンセリングです。ただし、それらを行うには,(継続的に自らの行為を言語化していくという意味で)対象児童の知的水準がある程度のラインにあることが必要とされます。

 事実、それらの基本条件を満たしている児童は今現在、上記のカウンセリングに順調に取り組んでいます。

 ところが、現在家庭学校では、これらの性的問題行動に加えて、現時点で理解能力が発達段階にあり、なお、発達障がいを有し、性的問題行動を繰り返し起こしているケースの児童も複数いるのです。

 それらの児童に対しては、専門的な医療的のサポートやそれらをベースとしたカウンセリングが必要な気がします。

 しかし、現在道内でこれらの機関を利用したくても、それらの機関はほぼ全て、都市部に集中してしましい、予約待ちをする場合がほとんどです。

 児童にとって必要なのは、卒業しても継続して通い続けることの出来る身近なサポート機関です。また、性問題の場合は、被害者への医療的・心理的なケアが欠かせませんが、それらのニーズを受け止めてくれる関連機関はとても少ないのです。道内,特に家庭学校のある網走管内においては,これらのサポートが都市部や他県と比較して圧倒的に不足しているように思えます。

 医療・心理機関等の社会資源の整備が、多くの生徒のより良いケアにつながるものと考えます。