ひとむれ

  このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。   職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。

※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
2017年09月号

「心で見る」

校長 仁原正幹

 恒例の夏期一時帰省を、今夏も望の岡分校の夏休み期間の中で実施しました。夏冬の一時帰省については、久々に家に帰って気持ちが緩んでしまったり、里心がついて帰校日にすんなり戻って来られなくなったり、場合によっては事件・事故に巻き込まれたりの心配もありますし、何しろ広い北海道ですから、全道各地の児童相談所までの長い道程(みちのり)を職員が手分けして公用車で送迎しているので、リスクも負担もそれ相応に大きいのですが、それでも私は可能な限り多くの生徒を帰省させたいと考えています。保護者の方に子どもの成長振りを見てもらうためにも、逆に子どもに保護者の状況や家庭環境の変化を肌で感じさせるためにも、一時帰省は絶好の機会となるからです。家庭の事情や児童本人の状況などで帰省期間は区々です。中には職員の送迎の下に保護者と短時間面会しただけの生徒や、帰省期間を児童相談所の一時保護所で過ごした生徒もいましたが、一応全員が故郷の空気を吸い、気持ちを新たにして家庭学校に戻ってきました。

 20日の日曜礼拝の校長講話では、皆それぞれが夏休みの間に少しずつ成長して、そして元気に戻ってきたことを嬉しく思う旨改めて伝え、今回は「心で見る」というテーマで、子ども達に語りかけました。以下、講話の概要です。

    ○

 今日は皆さんに「心で見る」というお話をしたいと思います。何だか変だな、ものを見るのは「眼」だよな、「心」でどうやって見るんだろう、と思う人がいるかもしれません。

 フランスの作家で、サン=テグジュペリという人を皆さんは知っていますか。

『星の王子さま』という有名な物語を書いた人です。読んだことある人いませんか。私はこの本を最初は小学生のときに読みました。子ども向けの童話のような、絵本のようなスタイルの本でした。

 二度目にこの本を読んだのは大学生のときでした。フランス語の単位を取る必要があり、そのときにたまたまこの本の原文を読む講座を見つけて、小学生のときに読んで懐かしかった『星の王子さま』を原文で読んでみたいと思ったのです。

 フランス語版は『Le Petite Prince』(ル・プチ・プラン)というタイトル・書名です。英語版なら『The Litle Prinnce』(ザ・リトル・プリンス)というタイトルで、両方とも直訳すると「小さな王子」という意味になりますが、日本語版では『星の王子さま』というタイトルが定番です。最初に翻訳した内藤濯(あろう)というフランス文学の先生がこの夢のある素晴らしいタイトルをつけたので、それ以降たくさんの翻訳本が出ていますが、どの本もみなこれに倣(なら)って『星の王子さま』という書名になっているようです。

 サン=テグジュペリという人は、フランスの作家、文筆家として知られていますが、それ以外に飛行機の操縦士の仕事もしていました。独りで小さな飛行機に乗って郵便物をヨーロッパからアフリカに運んだりしていたようです。最後は飛行機事故に遭ったのか、行方不明になって人生を終えています。

 この物語は、砂漠に不時着した飛行機乗りの主人公が語り手となっていて、その主人公が出会った男の子が、小さな小さな自分の星を後にしていくつもの星を巡ってから七番目の星である地球にたどり着いた王子さまだった…というような空想的な内容となっています。『星の王子さま』は世界の大ベストセラーかつ大ロングセラーで、世界中で最も読まれている本と言われています。

 さて、私の話に戻りますが、二度目に読んだときにはもう大人になっていたので、子どものときとはまた違った感銘を受けました。子ども向けの児童文学のようであるのだけれど、大人向けのメッセージがたくさん含まれていて、人間にとって大切な事柄、真実の教えが、この物語の中にあるということを、そのとき私は強く感じました。

 中でも私が最も感銘を受けた言葉が、「心で見る」です。この物語の中で、小さな王子様がキツネと会話するシーンがあるのですが、互いに「さようなら」の言葉を交わした別れ際にキツネから教えられることがあります。それは、こういうものです。「じゃあ秘密を教えるよ。とてもかんたんなことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」そういう教えなのです。キツネが王子様に伝えた秘密の教えです。「目に見えるものばかりが真実ではなくて、むしろ見えないところに一番大切なものが隠れているんだよ。だから、心で見なくちゃものごとはよく見えないんだよ。肝腎なことは目に見えないんだよ」と、サン=テグジュペリは『星の王子さま』という物語の中で「心で見る」ことの大切さを私たちに教えてくれています。

 六月の校長講話で、皆さんにお金についての話をしたと思います。覚えていますか。お金があれば幸せになれるかという話で、結論としては「世の中にはお金よりも大切なものがたくさんある。お金では幸福や名誉は買えない。だから、お金にとらわれてはいけない。お金なんかに目もくれず、心を磨いていこう。ただし、社会で自立して普通に暮らしていくためにはある程度のお金、最低限の生活費が必要なので、お金は大事にしよう」ということでした。今日はそのお話の続きのようなことになるかもしれません。

 目に見えるもの、例えばお金や、そのお金で買える宝石や、豪華な衣装、贅沢な食べ物、そういったものがたくさんあったらいいと、普通は思うよね。どんなに幸せだろうかと。でも、そういうものをいくらたくさん手に入れても、それだけで幸せにはなれるわけではないということを、六月の講話で話したと思います。

 世の中で一番大切なこと、大切なものは、本当はそういうお金で買える目に見えるものではなくて、お金では買えない目に見えないものなんだということです。それは何かといえば、例えば「人の心」とか、「思いやりの気持ち」です。

「時間」とか「未来」とか「名誉」なんていうのも目に見えませんが、どれもみんな大切だよね。見えないけれども確かにある大事なものばかりです。見えないからか、なんだか儚(はかな)くて不安定で、信じたいけれど信じ切れない、信じようと思えば思うほど不安になる、そういうものの中に大事なものがあるのです。

 私はその中でも「人の心」、「人の気持ち」がとっても大切だと思っています。時々みんなに「人の気持ちがわかる人になろう」と呼びかけているよね。「人の気持ちがわかる人になる」ということは、眼で見えないものを「心で見る」ということに通じることだと思います。

 ここにいる多くのみなさんは三月の卒業証書授与式に参列しましたね。覚えていると思うけれど、卒業生の中学三年生と小学六年生のために、故郷(ふるさと)の学校の校長先生や担任の先生が遠くから駆けつけてくださいました。たった一人の卒業生のために原籍校の卒業証書や記念品を持って来てくださったのですが、それは単に卒業証書という紙や、記念品という品物、どちらも目に見える物だけれども、そうした物を届けに来てくださっただけではなくて、立派に成長して晴れの卒業式を迎えることになった生徒への祝福の気持ち、温かな心を届けに来てくださったのだと、私は思っています。

 そういうことは、ほかにもたくさんあります。貴重なお休みの日に大勢で理髪に来てくださる月曜会の皆さんがいます。冬の一週間、スキー指導に来てくださる自衛隊の皆さんがいます。運動会や園遊会やクリスマス晩餐会などにも君達を激励に来てくださる大勢の皆さんがいます。そういう人達の温かな心、思いやり、そうした眼に見えない大切なものを、私達は心の眼で見ること、「心で見る」ことが大切だと思います。

 家庭学校の先生方や望の岡分校の先生方も君達のことを大事に大事に思って毎日指導・支援してくれています。そういう先生方の心や気持ちも、そして一緒に暮らす周りの仲間たちの心や気持ちも、心の眼で見ること、即ち「心で見る」ことが大切だと思います。「心で見る」ことをいつも忘れずに心掛けてほしいと思います。そして、人の気持ちがわかる人になって家庭学校を元気に巣立って行ってほしいと、私は願っています。

 今日は「心で見る」というお話をしました。終わります。

2017年09月号

児童自立支援施設職員研修に参加して

掬泉寮寮母 藤原美香

 七月二七・二八日の二日間、岩手県盛岡市で開催された東北・北海道地区児童自立支援施設の職員研修会へ参加してきました。私の地元岩手での開催であり、職場からの配慮もあり、前泊して久々の実家からの出張となりました。開催されるホテルまでは実家の最寄り駅から出発し、学生時代の通学を思い出し、感傷に浸りながら会場へと向かいました。何度か北海道・東北地区への研修に参加していたこともあり、顔見知りの他県の職員もいて安心しました。

研修内容は「児童自立支援施設におけるSSTの活用と実践」ということで、以前からSSTに関心を寄せていた私は、この機会にたくさん吸収していこうと期待に胸を膨らませていました。SSTの第一人者である前田ケイ氏による講義と主に演習を交えての研修でした。また、演習の題材はより施設の抱える問題解決に役立つように、とその場で工夫してくださり、より学びやすい環境へと変化していました。はじめはSSTの定義や対人行動についてや感情について説明がありSSTの基本についてお話していただいた後、具体的にSSTを学べるよう机を片づけて、円座になっての演習が始まりました。

今回は「友人の話を聞く」、「新入生に話しかける」、「友人の悪い誘いを断る」という三つの行動について、どんな動作があるか三~四人のグループになって具体例を挙げていくというものでした。一番研修の中で白熱したものは「友人の悪い誘いを断る」というものでした。悪い誘いの内容には、お金の貸し借り、未成年の喫煙、飲酒、夜遊び、無免許運転、施設においては無断外出などが例にあがっていました。児童自立支援施設で生活する児童の多くは対人関係や社会性において課題があると私は考えています。先の見通しができず、また、物事の判断が善悪ではなく、対人面における年齢の上下関係や力関係で判断し、悪い誘いであっても断れずにいることが多く、それが犯罪行為につながったり、施設内であれば不適応行動につながってしまっていると思いました。そのため、この議題を通して、施設内での指導に生かせるヒントがあるのでは、と思いました。各グループから出た断り方には「その場を離れる」や「ごめん、無理だ」と断ること、「信用できる先生に相談する」、「(金銭の貸し借りでは)自分の分でいっぱいいっぱいなんだ」、「(喫煙の誘いでは)体に悪いから」などの具体的な断り方が出てきました。そして、断るスキルには①相手への配慮、②理由、③友情を保つ言葉の3つの原則があるとのことでした。そして、施設で活用できるものとして、断る理由を職員と当事者が一緒に考えてみることが良いのではないかとなりました。問題解決法という方法を使い、あらゆる問題にはプラス面とマイナス面があり、当事者が直面している問題に対して断る理由を挙げ、それらのメリット・デメリットを表形式で記入していくことで問題が明確になり、また、当事者が自分に合った断り方を見つけやすいというものでした。一人では出てこなかった断り方が話し合ううちに出てきたり、その相手だったらこの断り方なら引きさがってくれるかもしれない、という発見につながり、実践しやすいのだろうと感じました。また、講師の助手の方と研修参加者が実際に断り方のロールプレイを行い、先生役と生徒役の場所を椅子で決め、一度生徒本人役が断った後に先生役が助言をし、さらに助言したことを参考に生徒役がもう一度断り方を練習する、というSSTの練習も実際に見ることができました。見本を見せることや役割を椅子などの場所を固定し、役割をお互いに演じることでより問題が明確になってくるのだと思いました。

演習の中では、問題解決に向けてグループ討議になりましたが、実践の場では一対一で生徒からの相談という形で生徒と話し合うことが多いです。当事者が困っていることに対してどれだけ情報を収集し、対応策を考え、解決に向けて実践していく中で、様々な意見を取り入れ、自分で決定していけるよう日々の支援の中で取り入れていきたいと思いました。研修の中で、対人スキルは人との関りの中でスキルアップしていくものであり、日常的にSSTを取り入れることで地道に対人スキルを磨いていくことになる、というお話もありました。この言葉は、家庭学校に入所し、私たちの寮に入ってきた生徒に日ごろから言っていることに近いと感じました。それは、「ここに来て、退所するまでの間にそれぞれの課題をしっかりと意識できるようになること」。また、「課題を乗り越えられるようにここにいる間に失敗も経験しながら練習していくこと」の2点です。その基本となるのが、今回学んだSSTであり、様々な場面で活用できるのではないかと思い、また、これまでの日々の支援も各生徒の個々の問題に対するSSTであったのだ、とも感じられる研修でした。

 今回の研修では、移動時間も含め3日間寮を離れての出張となりましたが、その間に吸収したことを家庭学校や生徒に還元できるよう、これからの日々の生活につなげていきたいと思います。