ひとむれ

  このコーナーでは、家庭学校の月毎の機関誌である『ひとむれ』から一部を抜粋して掲載しています(毎月上旬頃更新予定です)。   職員が、家庭学校を通じて感じたことや伝えたいことを表しています。是非、ご感想をお聞かせください。

※都合により『ひとむれ』本誌と内容が異なる場合がございます。ご了承下さい。
2017年06月号

「いっぱいいっぱい」

校長 仁原正幹

 オホーツク地方の五月は、今年もまた寒暖の差が激しい気象状況です。私は今、二十一日・日曜日の校長講話を終えたところで、独り校長室でこの文章を書いています。先ほどから日が陰ってきて、室内はだいぶ肌寒くなってきました。暖房を点けるか迷っているところです。

 午前中は陽射しが強くて、先ほど禮拝堂から本館まで楽山寮の生徒達と戻ってきたときは、汗ばむような陽気でした。道中蝉時雨が聞こえ、「エゾハルセミが今年初登場だね」などと談笑しました。千葉寮長が子ども達に「誰かカッコーの声を聴いた人はいないかい」と尋ねていました。毎年カッコーが鳴くと枝豆用の大豆を蒔くのだそうです。

 三日・四日の校長杯(球技大会)のときも、九日の花見の会のときも、オホーツクブルーの素晴らしい空の下、暑過ぎるくらいの陽気でした。今年の花見の会は桜の満開とどんぴしゃのタイミングで、時々突風が吹いて担当者が苦労したようですが、大変盛り上がりました。私としては、四度目の春にして初めて花見らしい花見を体験することができました。

 新学年・新学期のスタートから一月余りが経過しました。五月の大型連休も終わり(と言っても、家庭学校には連休などありませんが)、一般社会では五月病を心配する時期になりました。家庭学校の子ども達の中にも、体調を崩したり、心理的に不安定になったりして、不調や不満を訴えてくる生徒が増えてきたので、五月の校長講話では、そのことに関しての私の思いを話しました。

 以下、校長講話の概要です。タイトルは「いっぱいいっぱい」と付けました。

    ○

 お早うございます。五月に入ってから寒暖の差が激しくなりました。最高気温が三十度になる日もあれば、一桁台の日もあります。オホーツク地方の五月は毎年こういう天気になるようです。

 三年前のこの時期に、私は秋田で開催された全国施設長会議に出かけたのですが、そのとき、全国の五十八施設の中で最も北にある最も寒い所から来ましたと挨拶したら、みんなに笑われたことを覚えています。その日のニュースで、遠軽が全国で最も高い気温を記録したことが報道されていたからです。

 この地域は冬には全国で一番寒くなることもあれば、春のこの時期にはフェーン現象などで全国で一番暑くなることもあるんですね。この厳しい自然環境が私達の成長のために最も適しているとの考えから、百三年前に留岡幸助先生がこの地に家庭学校を開かれたんですね。

 ところで、皆さんは「熱中症」という言葉を聞いたことことがありますか。昔は「日射病」とか「熱射病」と言っていましたが、それらも含めて今は「熱中症」というのが正式な病名・名称のようです。「熱中症」の「熱中」は、「熱の中」と書くんだけど、「あつーい熱の中にいる」という意味ではなくて、もちろん夢中になって何かをするという意味の「熱中」でもなくて、「熱に中(あた)る」という意味だそうです。「中」という字が「あたる」という意味で使われることが結構あるんですね。「命中」とか「的中」とか「脳卒中」なんていう言葉がありますが、そのときの「中」は「あたる」という意味なんですね。

 昨日に続き今日も朝からかなり暑いけれど、五月になってから急激に気温が上昇することが結構ありますね。校長杯のときなどは気温が三十度近くまで上がって、陽射しが強くて大変でした。みんなは外で作業や運動をするときには帽子をかぶったりして気をつけていますね。ただ、「熱中症」は必ずしも太陽に当たらなくても、室内でも気温や湿度が高いときにかかりやすいそうなので、十分気をつけてください。特に激しい運動をするときには、身体の中でたくさん熱が作られるので、要注意だそうです。

 時々見かけますが、暑くなっても制服や長袖のジャージを着たままで頑張っている人がいるけれど、あんまり我慢しないで、状況に応じて上着を脱いだり着たりできるようになってください。普段から自分で小まめに体温調節する習慣を身に付けてほしいと思います。

 さて、ここからが今日の本題です。「いっぱいいっぱい」という話をします。何だろうなと思う人がいるかもしれません。「お腹いっぱい」の「いっぱい」ではなく、「精一杯」の「いっぱい」です。みんなの中で、毎日の生活、学習、作業、それから人間関係などが苦しくて、「もう、いっぱいいっぱいだ」と感じている人はいませんか。自分は要領が悪いから、我慢強くないから、もうこれ以上頑張れない、限界だ、いっぱいいっぱいだ…と感じながら、毎日、それこそ孤軍奮闘している人はいませんか。

 そういうふうに感じている人に対して、私は今日お話ししたいのです。「いっぱいいっぱいなのは、君だけじゃないんだよ」と。「一生懸命、真面目に、誠実に仕事や勉強に取り組んでいる人は、みんないっぱいいっぱいなんだよ」ということを。

 大人の人達、先生方の中にも、毎日そのように感じながら生活し、仕事に取り組んでおられる方が、きっと大勢いらっしゃると思います。実は、私も、いっぱいいっぱいなんです。もっとみんなの力になりたい、校長らしくしなければ、少しは世の中のためになる仕事をしなければ、などと思っているのですが、なかなか思ったとおりにいきません。もっと頑張らねばと、反省の日々です。いっぱいいっぱいだなと感じることが、よくあります。

 「でも、校長先生のいっぱいいっぱいと、僕達生徒のいっぱいいっぱいとではレベルが違うでしょう。僕達の場合は、本当にいっぱいいっぱいなんです」と言う人がいるかもしれません。そのように思うのは、君達の方が大人の私よりも誠実だというだけのことなのです。私は皆さんより四十年以上長く生きているので(小学生と比べたら五十年以上ですね)、多少は要領も身に付け、厚かましくもなっています。それでいっぱいいっぱいに見せないようにしているだけなのです。

 家庭学校の生徒だけがいっぱいいっぱいなのではありません。子どもであっても大人であっても、毎日一生懸命、力いっぱい、真面目に、誠実に生きている人は、皆いっぱいいっぱいのはずです。逆にそういう人こそ、いっぱいいっぱいになるものなのです。のんびり、緊張感もなく、自分をよく顧みないで、ただ流されている人は、決していっぱいいっぱいにはなりません。成長もありません。

 だから、いっぱいいっぱいだと感じていることは、決して恥ずかしいことではありません。誠実に頑張っている証拠なのです。胸を張って、これからもいっぱいいっぱいに生きてほしいと思います。

 特に君達は、自分を変革して、大きく成長するために家庭学校に来たのだから、そして今せっかく家庭学校で暮らしているのだから、のんびりなどしている暇はありません。積極的に「いっぱいいっぱい」の生活をしてください。そのことを自分自身で常に心がけてください。

 さて、そうしたときに気をつけることですが、泣き言は言わないこと、弱音は吐かないことです。時々「もう、ムリっす」とか言って、挫けてしまっている人を見かけます。嫌いな科目の授業に出たくないときや、陽射しが強くて暑いので作業に出たくないときなどに、先生に泣き言を言ってくる人、いないかな。「頭が痛いです」とか、「誰々君に腹が立ちます」とか、いろいろな理由を付けてその場から逃げ出そうとしたり、休もうとすること、ありませんか。でも、そういうのは、本当のいっぱいいっぱいとは言いません。弱い気持ちに負けて、自分を甘やかしているだけです。

 では、本当にいっぱいいっぱいのとき、本当に苦しいとき、悩んでいるときにはどうしたらいいか。そういうときは、独りで悩みを抱え込んでいないで、先生方に相談してください。家庭学校の先生方は君達の悩みを真正面から受け止めて、支えてくれます。きっと力になってくれます。励ましてくれるはずです。そういう場所が家庭学校なんだからね。

 ここに掲げられている『難有』の額、覚えているね。人間は困難なことを乗り越えて成長していくものなのです。さあ、今日からまた精一杯、ベストを尽くして、「いっぱいいっぱい」になって頑張っていきましょう。今日の話を終わります。

2017年06月号

今年度の蔬菜班

蔬菜班長 鬼頭庸介

 今年度の蔬菜班は、児童三名、家庭学校職員二名(鬼頭、前谷先生)、分校教員二名(河端教諭、臼井教諭)の体制でスタートしました。児童三名のうち、二名は三学期からの継続で、一名も昨年度の二学期には蔬菜班に所属していました。五月になって諸般の事情から急遽、私が石上館を担当することになり、蔬菜班の班長との両立をしていくことになりました。五月一日に入って来た新入生を含めると児童が四名で五月を過ごしました。

 毎年、三月になり、融雪作業が始まり、夏野菜などの種まきの時期になると、また今年も忙しい季節がやって来たと気が引き締まるとともに、台風や集中豪雨、日照りや日照不足といった人の力ではどうにもならない自然災害に遭わないことを願うことが習慣になっています。最近は、全国各地で天候不順に見舞われ、昨年は北海道でも台風の被害で十勝地方などではジャガイモの収穫を前にして水浸しになる等、大きな被害が出てしまいました。今年度はそんなことがなく、天候に恵まれた平穏な年になればなと思います。   

 その一方で、蔬菜班で作る野菜は有機無農薬を続けて来ており、毎年のことですが、害虫にやられることも心配の種です。アブラナ科の野菜に付く青虫程度ならなんとかなりますが、アブラ虫やナス科(じゃがいも、ナス、トマト、ピーマンなど)に発生するニジュウヤホシテントウは厄介なので、できるだけ発生してほしくない害虫です。他にも予想を超えたことが起こるかもしれませんが、慌てず諦めずに取り組んで行きたいと考えています。

 五月から寮を持ちながら蔬菜班をやっているわけですが、かつての寮長はそれぞれどこかの班を担当しながら寮運営も行っていたわけで、かつての姿に戻ったとも言えます。五月からそのような形でやってみてわかったことは、本館職員であったときには、やり残した作業や準備しておかなければならない作業をひとりでやっていたことが多かったのですが、寮を持ってみると、自分の寮の生徒と一緒に作業ができる機会が確実に増えました。石上館の児童にとっては蔬菜班に関係した作業が多く気の毒かもしれませんが、寮によって特徴があるのは、それはそれでいいことなのかなとも思います。石上館にいる児童は、今のところ二名と少ないですが、ふたりともよくやってくれており、この子にこんな力があったのかと感心させられることもあります。また、楽山・掬泉の児童も必要なときには夕作業等の時間に呼んで一緒に作業をすることもあります。そのことには二つの寮の寮長に理解をしていただき感謝しています。

 今現在(五月下旬)の畑の状況ですが、三月、四月の段階では石上館を担当することになろうとは考えていなかったので、早くに石上館のハウスにビニールを張って蔬菜班の畑としてそこにほうれん草とエンドウ豆の種を蒔きました。このふたつは順調に育ってもうすぐ収穫を迎えます。まだ寒い時期からハウスにほうれん草とエンドウを育てるのは今年度が初めてで、うまく行けば来年も続けたいと思います。

 また、給食棟や寮の炊事で欠かせないジャガイモについては、このところ数年間続けて神社山の畑で栽培して来たため、昨年から別の場所に移すことを計画していました。軽部先生にも相談して、平和寮下の以前は畑であった荒れ地を開墾して、そこで栽培することにしました。昨年の晩秋に加茂先生が酪農から借りた大型の機械で荒起こしをしてくれました。かなりの粘土質の土でしたが、そこに堆肥を手作業で施し、その作業が終わった翌日に積雪があり、以来根雪となりました。ぎりぎりセーフで間に合いました。さらに三月に融雪作業を行い、再び加茂先生に大型耕耘機で耕してもらい、種いもの植えつけ前には児童と職員で小型の耕耘機を使って耕し、畝立てをして五月中旬にはなんとかキタアカリと男爵を植えることができました。

 トマト、ナス、ピーマンも連作を嫌うので、新たに神社山にハウスを移転して設置しました。ハウスの設置については、毎年水原先生に任せていたので、私にとっては実質初めて行うに等しい作業でした。骨組みから立て直す作業なので、水原先生からも設計図を描いていただき、加茂先生、木元先生にも手伝ってもらいました。また、ビニール張りのときは、千葉先生が楽山寮生を引き連れて、土曜日にも関わらず午前午後を使ってこの作業を手伝ってくれました。地温を高めておくために四月中にすませておかなければならない作業でしたが、多くの人の協力を得てなんとか設置できました。ありがたかったです。今はこのハウスには五月の連休中に植えたピーマン、ナス、トマトが育っています。

 蔬菜班の主力の畑である神社山には、今現在前述の果菜類の他に、長ネギ・玉レタス・サニーレタス・キャベツ・ブロッコリー・白菜・芽キャベツ・スイートコーン・ズッキーニ・ほうれん草・ゴボウがあり、今週中にカボチャの苗を60本ほど植える予定です。神社山にはこの後、大豆と小豆などの豆類を予定しており、空いた場所は秋冬野菜用に残しておきます。ニンジンとダイコンについては、土がさらさらになっている桂林寮前の畑で作っています。この他に、キュウリとオクラは石上館のハウス内にあり、向陽寮の温室で育苗中の苗が数種類あります。

 このように四月・五月は毎年忙しいのですが、今年度はそれに加えて寮を持つことが重なり、かなり消耗しましたが、面白くもありました。蔬菜班の児童や関わってくださっている分校の河端教諭、臼井教諭や新任の前谷先生がそれに応えてくれており、四年目にしてやっと自分の蔬菜班になりつつあるという気がしています。また、分校の神谷教頭は、人手が足らないときにはそのような状況を察して手伝いに来て下さり、これまでもエンドウネット張りとジャガイモの植えつけのときには救世主のような働きをしてくれました。ありがたいことです。

 昨年の蔬菜班では、作業班学習の発表のときに、実践活動の写真が少なかったことを反省材料として、四月になってからは河端教諭がマメに作業中の風景と育苗中の苗等の写真を記録として残してくださっています。それも楽しみです。

 これからは、雑草や畑回りの草との闘いになりますが、こうした蔬菜班の活動を通して日々児童の成長を見ることができたらこれに勝る喜びはありません。

2017年06月号

ストレスとの付き合い

心理士 姜京任

 家庭学校で働いてから四年が過ぎました。児童自立支援施設の心理士として何をすればいいのか、悩み続けた四年間でした。一方で子どもたちの成長する姿を見ることは、喜びに溢れる時間でもありました。

 今回、『ひとむれ』原稿を依頼され、自分が取り組んでいるストレス解消法を紹介したいと思います。

 働いて二年が過ぎた時でした。家庭学校では毎月誕生会がありますが、職員もお祝いをしていただきます。丁度生まれた月だったので、ある子どもからお祝いの言葉を受けました。「お誕生日おめでとうございます。いつも話を聴いて下さって楽しいです。しかし、先生はあんまり楽しくないように見えますね。もっと楽しく生活してください」という内容でした。ユニークな文章で周りの人たちは笑っていましたが、私は自分が心理士なのにとショックでした。その夜、子どもの言葉を思い出しながら、知らないうちに暗くなっている自分に気づきました。それから生活と仕事から受けるストレスについて考えるようになりました。

 素晴らしい自然環境に囲まれている家庭学校での生活は、心安らかになることもありますが、やはりストレスが溜まる事もあります。そういう時に私はここから離れるようにしています。物理的な距離を置くことによって客観的に考えられる場合が多く、ストレスの原因に気付けることもあります。

 また、心理士の集まりにも積極的に参加しています。心理士は一人職種が多いので共感できる人々との関係から得られる力はかなり大きいと感じています。

 もう一つは、ピアノと水泳を始めました。何か達成感を得られることに取り組むことが必要だと思ったからです。楽しくやれることで集中力も高まると思い、私が子どもの時からやりたかったものに取り組み始めました。

 この三つの方法を踏まえて最近思うことがあります。子どもたちが家庭学校にきて日々学んでいるのは平凡な生活です。能く働き、能く食べ、能く眠り、能く考える生活です。不規則な生活から規則的な生活へ変えることで、どの子どもも退所する頃には成長できているのです。

つまり、平凡な生活ではあってもそういう生活が、子どもたちだけではなく、大人にとっても必要なのではないかと思うようになったのです。私自身が、生活を楽しむことで子どもたちとの関係も良くなれると強く思えるようになりました。

今後もストレスとうまく付き合って、自分の成長につながるように頑張るつもりです。